いつまでもふたりで

□3月12日
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澪が還ってきてから4日が経った。今ではもう、跡部にとって澪のいなかった9年間は嘘のようで今までずっと彼女が隣にいたかのような気持ちにさえなる。

だが反面、澪は日に日に美しさが増しているようだと跡部は感じていた。成長しているのだ、確実に彼女の身体は。

「澪、少しいいか?」

彼の机について日記帳にその日の出来事を書き込んでいた澪に跡部は声を掛けた。日記帳と万年筆、それは澪が自ら望んで跡部に頼んだものだ。生きている証を残したいからと彼女は言っていた。文字を綴る手を止め、澪が顔をあげる。

「どうしたの、景吾くん?」
「いや、お前の世話係を用意したもんでな、紹介しておこうと思ったんだが大丈夫か?」

澪のしていることを邪魔したくないのか、跡部がしつこく澪に時間の有無を尋ねる。澪は長い黒髪を耳に掛けながら世話係?と尋ね返した。

「そんな、私は大丈夫なのに」
「俺様がいない間、もしもお前が困る様な事があったら大変だろうが。それに女の事情は俺様には理解できても把握することなんざ無理だ」
「それは……そうだけど」

困った風に澪が首を傾げれば跡部は澪の後ろに回り込んだ。そして優しく澪の髪を撫で、さらさらと指の間を通り抜けるその感触が心地よいのか何度も髪を梳いている。その仕草に彼は世話係をつけることを取りやめる気はないのだと澪は感じ、小さくため息をついた。

「わかった、挨拶するなら早い方がいいもの」
「フン、相変わらず物わかりがいいな澪……おい、入れ!!」

跡部がそう響くように声を上げれば失礼いたしますと澄んだ声がして音を立てずに扉が開かれる。中に入った女性は同じく静かに書斎の扉を閉め、ふたりの机の前へと歩み寄り頭を下げた。

「お初にお目にかかります、澪さま。夜分遅くに挨拶させていただくことをお許しください。私はこれから澪さまの身の回りのお世話をさせて頂きます、福村雪乃と申します。御用がございましたら何なりとお申し付けくださいませ」
「さ、さまなんて、景吾くん」

戸惑ったように澪が跡部を見上げたが跡部は澪と視線を合わせても楽しそうに笑みを浮かべるばかりで取り合おうとはしない。
澪は再び雪乃へ視線を戻す。雪乃は40代後半といった容姿をしていて体格や人相からは温かい雰囲気がにじみ出ている。どこか母親を感じさせるような……そんな女性であった。澪は雪乃が頭を上げると当時に椅子から立ち上がる。
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