いつまでもふたりで

□3月17日
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ある日曜日の昼下がりの事だった。
跡部と澪は大型デパートに買い物に来ていた。澪が生活必需品を買いたいと跡部に頼んだのだ。

もちろん跡部財閥の次期総統がこのようなところに来るのは珍しいことで彼は見慣れないものに時折視線を寄せていた。また澪はというと9年という月日の間に変わってしまった者も多く、こちらもまたきょろきょろとあたりを見回している。ただふたりの手は固く握られ繋がれていた。

「で、お前は何が欲しいんだ?アーン?」

何でも言えと言いたげに跡部が澪を見つめる。澪は跡部を見上げそうだね、と返事をした。

「とりあえずは携帯かな、景吾くんと連絡が取れないと困るから」
「わざわざ買いに来る必要があったのか?俺様に言えばすぐに用意してやれたぜ?」
「外に出ることも大事だよ、私は景吾くんとデートがしたかったの」

彼女の口からききなれないデートと言う言葉が零れて跡部はふっと頬を緩ませた。

テニスばかりだったあの頃はろくにデートなどしなかった。いや、跡部はことあるごとに澪をデートに誘ったのだが、彼女の方があまり乗り気ではなかった、というのが正しい。

何しろ跡部が合宿の前日や試合の前日にデートに誘うものだから、マネージャーとしては受けきれないことも多かったのだろう。

「そうか……お前がそんなことをいうとは思わなかったな」
「ふふ、ちゃんと恋人同士に見えるといいな」

くすくすと笑いながら、澪は隣を歩く跡部の手を握り直す。数日前までは大人びた中学生のような外見だった澪は急激に成長をとげ、今ではすっかり色香が増し、艶美ともいえるような容姿となっている。澪、跡部がふたり並べば誰もが彼らを振り返った。先日まではどう見ても恋人同士には見えなかったというのに。

「当たり前だろうが、俺様の隣に並べるのはお前だけだ」
「嬉しいけど、ここ街中だからね」

甘い言葉を交わしながら人の間をふたりは縫うように歩く。道行く人々がふたりに視線を送っても気が付かなかった。ふたりだけの世界とはまさにこのことと言わんばかりに話を進めていく。

携帯ショップに入った時もふたりはさらに人々の目を引いたが、ふたりはやはりものともせずに携帯を選んでいく。澪が手に取りひとつひとつ手に取って携帯を見ていった。

「それじゃあ、これにしようかな」

澪が選んだのは白の折り畳み式携帯だ。電話、メール、写真、テレビ電話……最近では当たり前のようについてる機能がスマートフォン、Ipadで霞む前の代物だ。9年前を生きていた澪が選んだものとしてはこれでも当時のものよりは進んでいる。澪の選択に跡部は眉を顰めた

「旧型じゃねえか、最新型のを買えばいいだろ」
「だって景吾くんにしか電話を掛けないのにあまり機能がついてるのを選んでも仕方ないし……大体、私のお金じゃないもの。あんなに高いの買えないよ」
「俺様があの程度の金を渋ると思うか?」
「そうじゃないの、私はただ居候の身だから景吾くんにあまり迷惑を掛けたくないの」
「せめて同棲って言え。とにかく新しいヤツにしとけ。俺が買うんだ文句はねえだろ」
「……ええ」

仕方なしにといったふうに澪が肩をすくめて跡部に任せる。一般庶民と財閥の次期総統では金銭感覚が全く違うようだ、中学の時からそれはマジマジと見せつけれられていたが、やはり慣れないと澪は思う。

跡部は店員を呼びつけ、すぐに支払いと説明をさせた。説明をきいていればやはり9年前とは機能も大違いだと澪は何度も感嘆の息を漏らす。数十分の手間の後、ふたりはショップを後にした。
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