いつまでもふたりで
□4月15日
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「景吾くん、今週の日曜日はお仕事あるの?」
跡部の脱いだスーツの上着をハンガーに掛けながら澪が跡部に尋ねた。本来なら跡部の恋人である澪がこんなことをする必要はなく、メイドにも止められたのだがせめてこのくらいはと澪が譲らなかったのだ。跡部はネクタイを外し、首元を緩めると澪の後ろから手を引いてソファへと腰掛けさせる。
「お前がいるのに仕事なんざいれるわけねえだろ。どこか行きたいところでもあるのか?」
跡部がソファに腰掛ける澪の髪を撫でる。そういうわけじゃないんだけどね、と澪は困ったように笑った。
「ただ、景吾君がいてくれないと寂しいなって……今でも十分私のために時間を割いてくれるのはわかってるんだけど……」
「なんだ、そういうことならさっさと言え。お前が望むなら樺地に仕事を任せて俺はずっと傍についててやる」
微笑みながらそう言う跡部は心底本気のようだった。澪は苦く笑いながら跡部を見つめる。
「さ、さすがにそれはやめてね……だって、景吾くん一応会社でも上の役職なんだから、私のせいで休むなんて迷惑かけたくないもの」
「俺は迷惑じゃねえ、大体お前と一緒にいられねえ時間は無駄だ」
「ダメだよ、そんな……ちゃんと待ってるから」
今までどれだけ彼を待たせただろう、私が待つのは当たり前の事だ――そう思ながら澪は跡部にそう微笑むと跡部は多少不服そうにわかったと答えた。
「私のわがままなんて聞き流してくれればいいのに、景吾くんは優しいね」
「好きな女の願いを叶えてやれなかったらフィアンセ失格だろーが」
フィアンセ、という言葉に澪は困ったような表情をして跡部を見る。この言葉が跡部を束縛しなければよいのだが……。それでも跡部はその視線を気にせず、澪の肩を抱いた。
「景吾くん、私は景吾くんの傍にいられるだけで幸せだよ。他には何もいらないから無理はしないでね」
「全く……欲がねえな、もっと俺に甘えろ」
はあ、とため息をついて跡部は頭を抱える。以前からそうであったのだが跡部としてはもっと澪に甘えてほしいのだ。跡部に比べて割に澪が淡泊なのが跡部にとってはあまり面白いことではない。もっとも以前に比べれば格段に澪は跡部に対して甘えを見せている。いやむしろ、他の人間から見てみればふたりは互いにくっつきすぎだといっても過言ではないのだが。
「十分に甘えさせて貰ってる。これ以上は望めないよ」
「ったく……お前より俺の方が耐えられねえぜ。どんなに傍にいてもお前が足りねえ」
跡部のさらっと発した言葉に思わず澪は頬をほんのりと桃色に染める。跡部の言葉をいつも事もなさげに受け流しているように見える彼女だが、実はそういう言葉にはめっぽう弱かった。
言われるのが恥ずかしいというより、嬉しく感じているのを見られているのが恥ずかしいといったところだろうか。だからこそ受け流す、ということが特に中学時代は多かった。