いつまでもふたりで

□5月4日
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大自然が眼前に広がっている。跡部と澪はふたり、彼の財閥が取り仕切っている跡部牧場に来ていた。広い敷地の青々とした草花が美しく陽の光を受けて成長している。整備された敷地内には様々な動物の鳴き声が微かに聞こえていた。

「わあ……ここに来るのは久しぶり、9年ぶりかな」

澪が目を輝かせながら辺りを見回す。彼女は中学三年生のとき、この牧場へ足を運んだことがあった。それでもやはりあまり記憶の中には残っていない、一度しか来たことが無いのだから仕方がないと言えばそうなのだが。

「跡部財閥って凄いね、本当に何でも取り仕切っているんだもの」
「フン、別にどうってことねえ」

跡部が澪の手を握ったまま、実にどうでも良さそうに言う。やはり彼は自分の資産や財産にあまり頓着が無いようだ。それよりも澪の楽しげな顔を見ている方がどれほど価値があるだろう。

「ふふ、それにしても素敵な場所だよね……9年の間にいろんなものが変わっちゃってたけど、これだけ自然が多いところにくると安心する」
「お前に喜んでもらえるなら、本当に価値があるってもんだな」

跡部が満足げに澪を見つめる。澪は苦笑しながら跡部の手を握り返した。

「景吾くんったら……大袈裟だよ」
「俺様はありのままを口にしている。ただ単純にお前が喜ぶならそれが俺様にとって何よりの幸いだってことだ」

事も無さげに跡部は言う。本当に彼にとっては日常茶飯事の事なのだ。もちろん澪にとってもそうであるように。

***

更衣を済ませ、澪は跡部の元へと駆け寄った。今日ふたりがこの牧場に来た理由とは乗馬をするためなのだ。たまには気分転換に良いだろうと跡部が提案したのだが、単なる思い付きから乗馬服まで澪に買い与えるというのはさすがである。

「ほう……中々似合ってるじゃねーの」

跡部が嬉しそうに澪を見つめて言う。白のブラウスに黒のジャケット、革製のキュロットそしてブーツを身に着けた澪は何となく違和感のある自分の服装に戸惑いながら跡部を見上げた。

「どうしてこんなに本格的なものを揃えちゃったの……?」
「お前が使うんだ、一流の物を揃えておいて当然だろ」

さも当たり前のように跡部は微笑む。跡部も同じ様に乗馬服に身を包んでいた。彼の方は様になっていてまるで王子様をみているようだと澪は思う。もっとも普段から感じていることだと言ってしまえばそれまでなのだけれども。

「しかし、お前のその恰好は新鮮だな」

澪の手を引き、歩き出しながら跡部が言う。確かに還ってきてからは跡部の服装に釣り合うため、とまるでどこかのお嬢様のような服装ばかりをしていた。実際、澪自身あまり動きにくい服装は苦手なのだが、9年間で流行の流れは見る影もないほど変わってしまい、いまや全くついていけてない。そうなるとやはり跡部に付いてゆくしかないのである。

しかし今日は乗馬の為、跡部と同じようにどこかの王子様が来ていても遜色ない格好をしている。しかも髪が邪魔になるといけないため、纏めて一本結びにしていた。その姿はいつもの淑やかさを押しのけて凛々しさを感じさせる。

「似合わない?」
「いいや、良く似合ってる……もっとも俺様はどんなお前の姿も美しいと思うがな」

跡部の言葉に澪ははにかむ。その頬は薄桃色に染まり、跡部の心をまた更に惹きつけるのだった。
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