SS

□鎖
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がしゃん。がしゃん。

綺麗に整えられたというよりは殺風景な部屋で、美代子は手に付けられた鎖を外そうとしていた。

がしゃん。がしゃん。

何千何万とこすり合わせても傷しかつかない鎖に少々、美代子は苛立ちを覚えていた。
もうどのくらいこうしていたのかわからない。
誰もいないこの部屋ではこれくらいしかすることが無かった。

「無駄だって言ってるだろ?」

唐突に聞こえた声に美代子は鎖を擦り合わせていた手を止める。いつの間にか幸村がこの部屋の中に入ってきていた。幸村は不気味ながらも綺麗な笑みを浮かべながら美代子に歩み寄る。今までは人の良い笑みに見えていた彼の笑顔が不気味に見えるのはどうしてだろうと美代子は考えながら彼の歩みを見つめ、考えを打ち消した。

無理もない話だ。ここに美代子を繋いだのは間違いなく幸村だったからだ。

もともと嫉妬深かった美代子の恋人の幸村は、美代子をここに繋いでからさらに嫉妬深くなったようなきが美代子にはしていた。

「………精市」
「どうして俺から逃げようとするのかな?」

幸村は美代子の顎を掴んでぐっと自分の方へ美代子の顔を引き寄せる。美代子は幸村の手から逃れようとそっぽを向いて言葉を呟いた。

「逃げようとなんて、」

していない。という言葉は出てこなかった。
幸村に思いきり、口を塞がれたからだ。幸村は何度も何度も角度を変えながら美代子にキスをしたかと思うと、唇を割り舌を絡める。

「んぅ……んは……」

美代子が甘い吐息交じりの声を漏らすと、幸村はその声を求めるかのようにグッと後ろから美代子の頭を押さえつける。

「んんっ……」

息苦しさに美代子の目に涙が浮かぶ。
やっと放してもらえた時には美代子はすでに軽く酸欠になっていて肩で息をしながらくたり、と床に身体を投げ出し倒れ込もうと目を瞑った。だが幸村はそんな美代子の上半身を優しく抱き寄せ、自分の胸に倒れこませた。

「ねえ、そんなに真田が恋しい?」

私が繋がれたときから、彼はしきりに真田、真田という。

幸村が病に倒れたとき、美代子は傍についていることができなかった。後日見舞いに行って真田は副部長として美代子はマネージャーとして幸村の抜けた穴を埋めようと2人で幸村に宣言をした。

それから全国へ向けての練習が忙しくなり、幸村に美代子が会いに行けなくなったことは事実だが彼もそれは認知しているものだと思っていた。

美代子はずっと幸村を想い続け彼の復帰を願っていただけなのに。真田へ対する美代子の気持ちは友情と仲間意識それだけだと周囲から見ても明らかだったというのに。
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