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※グロ注意


愛おしいものを自分の手で消してしまうというのはどれだけ甘美なものなのだろうか。真紅に染まった手を見つめて柳は過去疑問に思っていたことを心の中で範唱した。

目の前には今現在も愛おしく感じている恋人の息絶えた姿。確かに、彼女の痛みに歪む顔は柳自身を興奮させるものがあったし、今この亡骸だって死体にしては異常な艶めかしさを放っている。

それでも後に残った虚しさはぬぐいきれなかった。彼女を殺してしまった今、柳にとって何が大切なのかわからなかった。今後何をすべきなのかも分からなかった。

彼女を自分の物にできたという満足感、これからも彼女は自分の中だけで生き続けるという支配感…それらを存分に味わえると思っていた柳はこれには何かに手酷く裏切られた気がしてならなかった。

「さて……」

本当に今からどうしようか。
彼女の身体はこれから細胞は破壊され、醜い血肉の塊と化すだろう。そんな彼女は見てみたいようでやはり見たくなかった。

「そうか……」

唐突に柳は思い出した。
まだ自分は彼女の……美代子のデータで知らないものがあったことに。そもそも愛おしいものを自分の手で消してしまうというのも元々は自分の知らない美代子の表情が見たかったからこそ思いついたことだった。

彼女の表情、性格、好み、身体…柳はすべて知り尽くしていた自信があったがたった今、自分自身まだとっていないデータがあることに気が付いた。そっと跪いて地に伏す美代子の頬に手を滑らせる。

「美代子」

愛おしげに柳が彼女の名を呼ぶ。そのまま自身の唇を彼女の唇に押し付けた。無機物のような冷たさと鉄のような血の匂いが柳の感覚器官をくすぐる。これが美代子のものなのだと思うとゾクゾクとした興奮が湧きあがってきた。

柳は美代子の頬からゆっくりと手を滑らせ、彼女の胸に触れた。先ほど彼女に突き立てた包丁が、今はもう温かく上下することのない胸で異常な存在感を放っていた。それを右手で握りすっと引き抜く。

ごぼりと傷口から美代子の血が流れ出た、すかさずその部位の衣服をはぎ取ると舌を這わせる。彼女の赤黒い血もグロテスクな傷口も普段なら気持ち悪いと思うはずなのに何故か柳に恍惚感を与えてくれた。

血に塗れた包丁を片手に試しに美代子の腕に刃を宛がう。上下に包丁を動かしながら時間をかけて美代子の前腕の肉をそぎ取った。
そしてゆっくりとそれを手でつかみ、口の中へ放る。初めての触感、血の味しかしない彼女の肉を柳は懸命に咀嚼しながら思う。

調理さえすればいけるのかもしれないな。

その肉を嚥下し終えた柳は口元に薄く笑みを浮かべながら低く呟いた。

「データに記載しておこう」
 

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