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□一味違う
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「若くん、お願いがあるの……」
「何だ?」

美代子も二度目の日吉の家への訪問時、彼の古武術の稽古を見学して、彼の部屋で他愛のない世間話をしていたときのこと。美代子は長い間彼に頼もうと思っていたことを言うつもりだった。

「若くんは嫌がるかもしれないんだけど……」
「いいから、はっきり言えよ」

言葉を選んでいるかのように美代子が頬に手を当てる。煮え切らない態度の美代子に日吉は少々苛立っているようだった。

「あの……ね、眼鏡かけてほしいの、ダメ?」
「何で俺がそんなことしなきゃいけないんだ?」

大体、そんなもの見てどうする?、と隣に座る美代子の顔を怪訝そうに見ながら言った。

「第一、俺はお前に眼鏡をかけるなんて言った覚えはない」
「忍足先輩に聞いたの、若くんが家では眼鏡かけてるんだって」
「……またあの人か。あまりあの人に近づくなって言ってるだろ?」
「だって、先輩だし……優しいよ?忍足先輩。あの人がいなかったら若くんの眼鏡のことは分からなかったことだし」

はぁ、とため息をついて日吉は頭を抱えた。忍足には常々近づくなと言っているのに、美代子はそれを聞き入れない。

ただ日吉はあの忍足に無防備に近づく美代子が心配なのだが美代子には全くそれが伝わっていないようだった。


「若くんの眼鏡姿、きっとカッコいいのに……」
「……かけてやってもいいが」
「本当!?」
「俺の言うこと何でも聞けよ?」
「何をしたらいいの?」

美代子が日吉にぴたりと身体を寄せる、そして彼女は無意識に顔を彼に近づけた。日吉は慌てて顔をそらすと、如何にも余裕があるといった態度で彼女の問いに答える。

「そんなの自分で考えろ」
「だって、若くんがしてほしいことってわかんないよ……滅多に言ってくれないから。あ、跡部先輩への下剋上のお手伝いとか」
「それは俺一人でやらないと意味がないだろう?」
「そうだよね……」

何がいいんだろう、と美代子は黙り込んだ。それを見て日吉はまたふぅ、と息をつく。

せっかく美代子が自分の頼みを聞いてくれるというのに、鈍感な彼女のせいでムードも何もない、と言いたげな表情を隠しきれていない彼は、本気で悩んでいる彼女を見て「お前が欲しい」なんていうキザなセリフもどこかへ吹き飛ばしてしまった。
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