SS

□紙一重
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最近、幸村君が怖くて仕方がない。

ふと、部活をしている彼を教室で待ちながら美代子は思った。窓を開けてみれば真田の怒号がここまで聞こえてくる、いつも通りの変わらない練習風景だ。それなのに日々、幸村との関係が壊れていっている気が美代子にはしていた。

優しく穏やかで、少し怖い面も持っているけれどそんな幸村が美代子は大好きだった。
彼から想いを告げられ、長い片思いを終えたときは飛び跳ねるほどうれしかったはずそれなのに。

ある日どうしてか彼は変わってしまった。
美代子が男だろうが女だろうがはたまた教師であろうが話をするのを制止するようになり、それを振り払おうものなら静かにだが、かなりの威圧感を込めて彼は怒った。

校内ではいつでも自分の傍にいることを強要したし、また家にいて電話がかかってきた場合などは3コール以内に電話にでないものなら家にも押しかけてきたことがある。

日々重くなっていく愛に美代子はだんだんと自分が辟易してくるのを感じていた。
極めつけは昨日のことでお昼休みに屋上に行くのが遅れたために彼にとうとう手をあげられてしまったことだ。残っていた幸村への愛情はその手の一振りで恐怖へと変わり果ててしまった。彼は美代子に手をあげてしまったことを何度も詫び、震える美代子の身体を抱きしめて愛の言葉を囁きはしたが美代子の心は幸村に対して恐怖という感情しか感じなくなっていた。

きっとこのまま彼と関係を続けているといつか殺されてしまうのではないかといった不安が一晩中頭の中を駆け廻り眠ることなど到底できなかった。

しかし逆に別れを切り出そうものならそれこそ自分の首を絞めることになるのではないかという考えも美代子の中に浮かんでくる。

もしも彼が出会ってくれた頃に戻ってくれたならと美代子は願わずにはいられなかった。
そうなれば、恐怖は失われた愛情に戻るのではないかと……また彼を好きになればこの痛みを苦痛と感じなくて済むのではないかとそんなことを思いながら美代子は窓の外を見つめた。
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