いつまでもふたりで

□6月3日
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跡部邸の朝は今日も早い。まだ朝8時だというのに澪は慌ただしく彼の部屋を駆けまわっている。跡部はというとそんな澪を見つめながらどこか不機嫌そうに紅茶を飲んでいた。

澪を見つめ跡部が今のような不機嫌な表情を見せることなど、これまで嫉妬を除けばほとんどなかったのだがこれにはわけがあった。

「澪、お前がそんなことする必要ねえだろうが」

跡部の声は表情共に機嫌が悪く、普段見せない子供のようなむくれた表情をしている。澪は跡部の方へ困ったように視線を寄せると仕方ないでしょう?と跡部の方へ歩み寄った。

「決まってしまったことはどうしようもないよ。それに2週間と2日じゃない……ちゃんと待ってるから」

諭すような口調で澪は跡部を宥める。跡部は今日の10時すぎの飛行機で海外に出張に行くことが先日決まったのだ。澪が還ってきてからその手の話はことごとくはねのけていたのだが、今回ばかりは跡部が行くほかどうしようもなかった。

「無茶言うんじゃねえ、お前がいねえ毎日をどう過ごせっていうんだ」
「電話もメールも毎日するから、ね?私も寂しいもの」
「……お前の寂しいだけは信用ならねえからな」

実を言うとこのようなやり取りを、やはり9年前にもふたりは交わしたことがある。確かあれはU-17合宿の時だったろう。出発の時はやたらと寂しいと跡部に澪は縋っていたのだが、数日もすれば長電話や長文メールをよこすことは少なくなり、部活の業務メールの最後に追伸で3文ほどしかメッセージを寄越さなくなったのだ。

澪の言い分としては"練習で疲れてるでしょう?早く休まないと明日の練習に差し支えるから"とのことだったが当時はその件で口論になった覚えがある。
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