いつまでもふたりで

□8月13日 前
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もうすっかり、夏真っ盛りだ。太陽がさんさんと降り注ぐ今日、彼は部屋にいた。今日は仕事が休みなのだ。そして今は、どうやって澪に悟られず出かけるかを模索していた。

別に彼女は跡部の行先を一々尋ねたり、制限することは無い。跡部自身が澪に行先を常に告げたいだけなのだ。彼女に変な心配を掛けないためにもどこへ行き、どのくらいに帰ってくるのかを跡部は日々澪に告げている。だからこそ、何も言わず隠れて出かけるというのは虫の居所が悪かった。

「どうしたの?難しい顔してる……」

浮かない顔をしていたのか、澪が心配そうにソファに掛けている跡部の顔を覗き込んだ。跡部は何も言わずに澪の首筋に手を当てる。そうしてみれば図らずとも澪の首にとくんとくんと彼女の生の証が存在しているのが分かった。

「……?景吾くん?」
「澪……」

澪が跡部の様子に不思議そうに顔を傾げると跡部は澪の名を呼んで、そっと澪の背中を抱き寄せる。やはり行かないほうがいいだろうか。澪は確かにここに存在するのだから。

「澪は澪だろう……なあ」
「どうしちゃたの」

澪は跡部の背に手をまわして彼の身体を抱き寄せながら、優しく背中を撫でる。これほど彼女の身体は温かいのに――。世界は本当に理不尽だ。

「景吾くん……」

澪が柔らかい声で跡部に囁く。

「あのね、私を連れて行ってほしいの……、私のお墓に」
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