いつまでもふたりで
□8月20日
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跡部景吾は応接室へと向かっていた。今日は人と会う約束があった。だから普段よりも3時間以上早い時間に返ってきたのだし、澪にも自分が帰宅したことを知らせなかった。きっと今、澪は屋敷のどこかで跡部を待っているのだろう。だが、彼女に客人のことを知られるわけにはいかなかったのだ。
二度扉を叩いて、応接室の扉を開ける。中には一人の女性がすでにメイドによって出された紅茶を飲んでいた。彼女は跡部に声を掛けられるとすっと立ち上がる。
「久しぶりね、跡部景吾」
学生時代とは少し印象が変わったような気がする。ショートボブにしていた髪は肩下あたりまで伸び、ゆるくまかれている。しかしはっきりとした顔立ちと気の強そうな目は変わらぬままで、堂々とした威厳をもちつつ、跡部を見つめていた。
「ああ、待たせて悪かったな」
「いいえ、構わないわ。……仕事は良かったのかしら?」
「ああ、別にかまわねえよ」
高圧的な表情を浮かべながらその女は跡部を見上げる。跡部は彼女の対面のソファに腰かけると女性にも座るように促した。
「座れ、早瀬」
「ええ、遠慮なく」
早瀬と呼ばれた女性は優雅な動作でソファに腰かけるとふっと笑った。そして彼女はじっくりと跡部の顔を見て思わず吹き出す。