いつまでもふたりで

□10月5日
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実に心地よい眠りから目覚めた朝だった。澪は温かくぼんやりとした夢の中から意識を引き戻される。カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいる。いま、何時だろう。澪はまだどこか眠気を感じながら上体を起こす。はらりと澪に掛けられていた布団が澪の胸から落ちれば少しだけ肌寒さを感じた。

「……、」

自分の胸元に手を這わせ、思わずたった今退けられた布団で胸を覆う。そういえば彼女は服を着ていなかった。彼女の白い肌にはいくつもの赤い鬱血が残っていてそれが昨日の行為を鮮明に思い出させる。彼女はようやく、跡部の女になったのだ。その事実を再認識してみるとどうしてか照れくさく思えてしまうがそれはとても温かく幸せなものだった。

「アーン……。澪、起きたのか?」

いつもは寝起きがよく、目の覚めた直後もしゃきっとしている彼が気だるげな声を上げた。清々しい朝、白いシーツを引っ張り、澪は再び体を跡部の隣に横たえる。そしてふふ、と優しい微笑を浮かべながら跡部の身体に自らの身を寄せた。

「おはよう、景吾くん」
「ああ、おはよう」

澪が寄り添えば迷いなく跡部の手は伸びてきて澪の身体を抱き寄せる。彼の手は優しく澪の腰を布団の中で撫でた。未だショーツ以外は脱ぎ捨てたままだった。尤も、ふたりの関係に今更そんな事関係はないのだが。

「身体、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。……心配性ね、景吾くんは」
「アーン、そんなんじゃねえよ。俺様は」

慈愛を浮かべる澪に跡部がハッと笑う。そして赤が散っている彼女の首筋にキスを落として澪の耳元で囁いた。

「お前だから心配なんだ、逆を言えばお前じゃなかったらこれほど心配なんざしねえ。……いつだってな」

そういって跡部はそっと澪の身体を抱き寄せた。ふたりは互いの温もりに身を寄せ、目を伏せる。幸せだった、きっと世の恋人たちもこうやって愛を育むのだろう。澪はそんなことを思いながら跡部の腕の中の温もりをいつもよりも鮮明に感じていた。

とくんとくん、と彼の胸の鼓動が聞こえる度、またそれに共鳴するように自分の心臓が鼓動を打てば、私は生きてここに存在できているのだと実感した。きっと今この瞬間、私は世界で一番の幸せ者だ。

「澪……」

跡部が求めるように澪の名を呼んだ。まるでそれは彼も幸せを噛みしめているかのように聞こえる。澪は返事の代わりにそっと彼の胸板に頬を寄せた。するとそのとき、ふっと自分があることを忘れていることに気が付いた。
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