いつまでもふたりで
□2月23日
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ふたりの式は無事に終わった。戸籍上未だ結ばれたわけではないが、実質ふたりはもう夫婦として振る舞っていた。跡部邸の執事もメイドも跡部がそう命じたのか澪のことを若奥さまと呼ぶ。ふたりの日常はあの日からそう変わったわけではないが、ひとつの儀式を経てより深いところで繋がれたのではないだろうかと互いに感じていた。
「今日も寒いわね」
仕事へ行く跡部を見送りに出た澪が呟く。空はどんよりと曇っていて雪がちらついていた。積もるほどではないがそれだけ寒いということだろう。吐き出された息は白い。
「そうだな。寒いなら部屋に入ってろ、見送りは玄関までで構わねえ」
俺様はこれがあるから寒くねえがな、と跡部は黒いマフラーに触れながら微笑む。彼の誕生日に澪が贈ったものだ。彼はこのマフラーを仕事の時でもプライベートの時でも必ず付けている。もちろん実用性があるからという理由もあったが、何より愛しい彼女が編んでくれたものだという理由が一番だ。着けているだけで彼女の一部に触れていられているようで幸せだった。
「ふふ、大丈夫。景吾くんがいるもの」
そっと澪が跡部の手に触れる。彼の手は温かい、それだけで澪の心は満たされる。どんなに寒くても暖かだ。
「これだけで暖かいから」
「澪……」
跡部はそっと澪の身体を抱き寄せる。どんなに雪が降っていても気にならないほどに彼女は温かい。彼女が言っていることが確かにと納得できるほどに。
「ああ、暖かいな」
彼女の身体の温かさに安堵するのは何度目の事だろう。行ってらっしゃいのキスを交わしてふたりは笑う。新婚夫婦の姿がそこにはあった。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
こんな些細な言葉が何よりも幸せに感じられた。今日もいつも通りの日常が始まっていたはずだった。