暗チョコ

□あと少し
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「トシ、刀の手入れしとけよ。」
「あぁ…」
今日は討ち入りの日。
いつになく屯所の空気はピリピリしている。
無理もない、今日の討ち入りは過激派のアジト。
自分の為なら敵味方関係なく切るような奴らだ。
半端な気でかかれば死ぬ。
そうでなくてもいつもより数段危険なのだ。
さすがに今日は全員真剣そのものだ。



「時間だ、いくぞ。」



「御用改めである、神妙にしろ!!」
土方の掛け声を合図に一斉に突入する。
現場は一瞬で戦場だ。
「ぐあぁぁ!!」
何処かで仲間が斬られたが気にしていられない。
(目の前の敵に集中するんだ、じゃねーと…死ぬ。)
一瞬の迷いが命取りになるこの場所で、
土方は一心不乱に刀を振るう。
「っくそ…」
「総悟!!」
あの総悟が腕をやられるとは、相手は
剣の腕も
「ただもんじゃねー……」



あれからどのくらい時間がたっただろうか。
相手もあと5,6人しかいない。
「あ”ぁ”ぁ”」
最後の一人を総悟が斬る。
「やっと片付いたか…」
見渡せば辺りは血の海だった。
まぁ、これだけ斬れば当然だが……
さすがに代償も大きかった。
ここに来た隊士の3分の1がこの血の海に倒れていった。
いつもの討ち入りと比べたら激しいものだった。
やっと終わり、土方がタバコに手をかけた、その時ーーー
「近藤さん!」
まだ息のある男が、近藤の背に斬りかかる。



ザシュッ



鈍い音と共に紅が舞う。
その血の主は……



「トシイイイ!!!」
「土方さん!」
「副長!!」



土方が近藤をかばったのだ。
スカーフが服が、体が真っ赤に染まっていく。
「土方、土方ぁぁぁぁぁ!!!!」
沖田の叫びが土方に届くことはなかった。
「や……嫌だ!副長が……そんなっ…」
「ト……シ…」
「…っそ……あと…」
「土方っ!!」
「…あと……少しで……終わ…っのに…」


“あと少しで終わったのに”


土方の後悔の言葉だった。
「何言ってんでい!しっかりしろい!」
「副長、止血はしました。あと少しの辛抱です!」
「だからトシ!あと少し頑張れ!」
ーーあと少しで終わるからーー
「……あぁ…」



今は病院。
手術室の前で手を合わせ祈る時間近藤は、
こうなった事に責任を感じていた。
(俺があの時気づいていれば……)


あの時、あと少し遅ければ近藤は死んでいた。
あの時、あと少し早ければ土方は助かったのか?
「あと少し」という所でいつも、選択を間違うんだ。
「はぁ…」
手術中のランプが消えた。
「先生!トシは…」
「手術は成功しました。意識が戻るまで、なんとも言えませんが…」
「ありがとうございました。」


その日の夜、土方の意識は無事に戻った。


「『あと少し』生きねーとな。」
「いいえ、副長」


“まだまだ”生きて下さい。
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