assassino&cinderella girl

□リゾットの不在×イルーゾォ
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闇の世界で生きてきた男を変えたのは、ある一人の女の存在だった。


人を愛する喜びを知り、新たな人生を踏み出した二人だが、その共同生活はもうしばらく実現しそうにもない。







−任務完了のあの日から一週間と数日。チームの部下や、組織の上層部の者達が見舞いには来てくれている。



ただ、ななしだけはいくら自分が会いたくても、この病室は教えないように皆には口止めしてある。


ななしと組織の関係者をなるべく近付けたくないのが事実で、ギャングに父を殺されたななしが本来関わるべきでない存在だからだ。




しかし…




「チャオ、リーダー。」


「…メローネか…。」


「ん。お見舞いにメロン買ってきた。」


「……グラッツェ。」



メローネがメロン…何だか目の前で食べるのは複雑なので、とりあえず保留にしておく。



「リーダー、入院もう少しかかるんだって?」


「あぁ…それまではアジトを頼む。」


「了解。何しろ今回の任務の報酬額はデカかったからねー。当分の間は仕事入らなくてもやっていけるだろ。」




そう言ってベッドに上がると、メローネは横たわるリゾットに跨がった。



「……何してる」



「ふふっ……いや。リーダー、ななしの事口にしないけど実際会いたくて死にそうなんだろうなぁって思ったら…可愛く思えてさ。」



長い髪がリゾットの顔の横に流れる。身じろぎ一つしないリゾットに身体を寄せると、鼻で笑った。




「リーダーさ…溜まってるだろ?何なら俺が抜いてあげよっか…。」



「…結構だ。」




首元に擦り寄るメローネに興味も示さず、ただ病室の天井を見つめる。


「あぁ…あと少しで愛しのななしの元に戻れる…、その期待を目前にするが、思うように抵抗出来ない身体を部下に犯されてしまう……ってシチュエーション、すごくそそらないか…?」


「……フン…。相変わらず悪趣味だな。」




メローネの肩を押し返すと、起き上がってくしゃりと前髪を整えた。


「それに加えてさ、ななしも愛しい人に会えずに、毎晩自らの身体を慰めているかもしれない…。健気なななしがそんなことを知ったらと思うと……ぞくぞくする。」



自分の身体を抱き締めながら妄想に浸るメローネを尻目に、呆れた顔をした。


「……お前俺の事嫌いだろう。」


「いーえっ。寧ろ愛してる。」



ななしとの仲を匂わせるような発言もだが、メローネはリゾットに意地悪な面を見せるのは確かだ。ただ、リゾットからしてみればメローネは可愛いげがあって憎めない。そんな仲でもある。



「大丈夫。ななしには"強力な親衛隊"がいるから……俺が近づく隙なんてありゃしない。ホラ、そんなななしから預り物。」



メローネから、可愛らしいレースや苺のプリントされた封筒を手渡されるとリゾットは一気に赤面した。



「今時可愛いよねェ…手紙書くなんて。ホント乙女だよあの子は。」


惚れ惚れとした顔でクスリと笑いながら、「また、」と言って、メローネは病室を出た。



「(リーダーのあんな表情……ふふ…。初めて見た。)」





メローネが病室を出ても尚、リゾットはその封筒を見つめたまま開封することが出来なかった。


宛先に書かれたななしの字は、実質初めて見ることになる。


「("リゾットへ"……なんて可愛い字なんだ……。)」



頬を蒸気させ、ななしの姿を思い浮かべると口元を手で覆った。


開けるのが勿体ない。どうしても会いたくて死にそうになった時に開封しようか、なんて考えながら、結局はせっかく書いてくれたんだと思い、ななしの手紙を開ける他なかった。




"リゾットへ。


身体の具合はどうですか?


あれからまた病院に戻ってしまって、私は毎日とても寂しいです。"



「(………あんな気丈に振る舞っていても、やはり寂しいのか…ななし…。)」



"みんなは最近任務休暇を与えられてるので、アジトで退屈そうにしています。"



「(皆がななしの近くにいる時間が多いのは悔しいがな。)」



"だから私も、リゾットに会えない退屈な時間を使って何かしようと思って、手紙を書くことにしました。初めて男の人に手紙を書くので、何を書いていいかわからなくて…何枚も書き直しました。"



「(俺が初めてか…。何枚も書き直す程一生懸命書くなんて…ななしらしい。)」



"退院まであと少しかかると聞きましたが、退院の日には私がリゾットの好きなものを作って待っていようと思います。何が食べたいですか?"



「(真っ先にななしが食べたいかな…。)」



"会いに行けないのは寂しいけど、私は毎日リゾットの事で頭がいっぱいです。でも、頑張って怪我を治してるリゾットのおかげで頑張れます。どうか無理はしないように。"




そして手紙の最後には、こう書かれていた。



"リゾット、世界で一番大好きです。ななしより。"




手紙を読み終えると、窓の向こうを見つめて小さく溜め息をつき、笑みを浮かべた。



「ありがとう…ななし。」











「ただいまー。」



「メローネお帰りなさい。リゾットどうだった?」




アジトに戻ったメローネがリビングに姿を見せると、ななしが真っ先に尋ねた。



「リーダーったら病室に行ったらさぁ、看護婦の女とヤってたんだよねー。ななしに会えないから溜まって…」


メローネはそこまで言うと、後ろからスカン、と音をたてて頭を殴られた。



「純粋なななしに嘘は許可しない。」



「いったァ…、何だイルーゾォか…。」



手にしたフライパンをくるくる回しながら、あからさまに機嫌の悪い顔をしてイルーゾォが冷めた視線を送っていた。まさにターゲットを始末する寸前の目をしている。



「イルーゾォ……リゾット、そんなことしないよね…?」



じわりと涙を浮かべるななしを見て慌てて表情を戻すと、その小さな頭を撫でてやった。


「当たり前だろ?リーダーはななし以外興味ないさ…。あんな奴はほっといて飯にしよう。」




そう言ってななしを連れ去るイルーゾォに、メローネは舌を出して不貞腐れた。



現在アジト内にはななし親衛隊なるものが存在する。一人はこれまで同様、ななしを支えてきたイルーゾォであり、もう一人は…只今外出中のようだ。




「んー、今日はアジトで飯食う奴これだけか。」


メローネが頭を擦りながら辺りを見渡すと、イルーゾォが応えた。


「プロシュートはペッシと出て行ったし、ホルマジオはギアッチョと出て行ったぞ。」



この三人でテーブルを囲むのは初めてで、何だか違和感すら感じる。他の皆は暇をもて余したのか、プロシュートは弟分のペッシ、ホルマジオは地元の後輩であるギアッチョを連れて外出してしまった。


「イルーゾォ…みんなからご飯誘われてたけど、良かったの?」


ななしが席につくと、縮こまりながら遠慮がちに尋ねた。


イルーゾォは何よりも、メローネとななしをアジトに二人きりにするのだけは避けたかった。メローネの責任は自分の責任のように感じる為、もし何かあったらリゾットに顔向けが出来ない。ななしに何もないようにアジトの番をするのが、役割になっていた。


もちろんメローネに対する信頼がゼロと言うわけではないが、彼はななしを愛しすぎている。そのつもりがなくとも、衝動的に手を出してしまう可能性がある…そんな予感がして、自分がアジトに残ることを決めたのだ。




「大丈夫だから…。ななしはいい子だな。」



そう言うと、ぱっと表情を明るくするななしに微笑みかけて、自分も席に着いた。




「いただきます。」


ななしとイルーゾォが二人で作った料理が並ぶ食卓で、異質な組み合わせな三人が共に夕食をとる。何だか空気も妙で、一様に大人しく食事を始めた。



「……最近暇だよなぁ。」



イルーゾォが静寂を打ち消すようにぼそりと呟くと、それを聞くなりメローネが何やら意味深な視線を送り、ニヤリと笑った。


「暇だからこの後3Pでもしない?」


「ッ!?」




目を見開いて驚くイルーゾォの隣では、ななしが顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。


「不健全な!許可しない!こんな非力なななしをマワすなんて発想自体が下衆だ!」


「暗殺チームってだけで下衆なのはお前も変わらないだろう?どうせななしの身体をオカズにした事ぐらいあるくせに。」


「ばっ…馬鹿か!あるわけないだろ!」


「あー、ななし聞いたか?イルーゾォってばななしに性的な魅力はないって発言したぜ?」



嫌な予感がして隣に座るななしを見ると、俯いたまましょんぼりとしているように見えてイルーゾォは焦りを見せた。



「いや、違うんだななし!ななしは胸だって大きいし柔らかそうだし形もいいし、顔も声も仕草も可愛いし初々しいし、充分魅力的だ!ななしみたいな子を抱けるなら土下座してでも……」



イルーゾォがそこまで言うと、ななしの表情が一変して……完全に失望したかのような顔をしていた。


「そっか……イルーゾォだって真面目そうに見えて、やっぱり男の人なんだね…。」




仕方なさそうにぎこちない笑みを浮かべるななしにショックを受けながら、メローネに上手く乗せられた事に後悔を感じた。何にせよ、ななしにだけは心からの信頼を得ていると思っていたからだ。



「(ふふん…ななしに失望されてやがんの。)」



そしらぬ顔で食事を口にするメローネを睨み付けながら、「(リーダー、早く帰ってきて…)」と心の底から思ったイルーゾォだった。



−かくしてリーダー不在のアジトでの様子を皮切りに、シンデレラガールの新たな物語が始まった。




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