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□飢えた吸血鬼
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館の主人、DIOは吸血鬼だ。
日頃は日光が入らない部屋で書物を読み漁り退屈していたが、ここ最近は新しい部下が身の回りの世話をするようになり、冷酷な吸血鬼の世界がガラリと変化していった。
飢えた吸血鬼
「なまえ、お前の暮らしていた国では和食と言うものが国土料理なのだな。」
「はい。DIO様は和食を召し上がった事はないのですか?」
なまえとの接触は幾年も棺の中にいたDIOにとって全てが新鮮だった。佇まいも口にする言葉も、故郷の話も。
自分が長年眠っていても世界は変わっていく。知らない事は多いだろう。何に興味があるわけでもないが、どんな話題であろうとこうして知識が増えていくのは無駄ではないと思う。
「不思議なものだな。私は物事には執着しない主義だと思っていたが…お前と話していると知識への欲が湧いていく。無知とは実に未熟なものだな。」
「何を仰ってるのです。私はDIO様はこの世の全てを見てきたかのようなお方だと思います。物事の摂理、心理…全てを知り尽くしているかのようです。」
なまえはDIOの横で静かに笑う。
少し傾けた首からうっすらと見える血管−ここにはDIOの命の原動力が流れている。
物事には執着しない…そうは言ってみても、なぜ自分はなまえを側近の部下として側に置くのか。
たかが戦闘の手駒を何故、本能のまま生きている自分の食糧としないのか。
どんなに知識が増えようとも、DIOにはそれだけは解らなかった。
「DIO様…」
なまえの首筋に唇を這わせて、脈を感じとる。しかし決して歯を立てることはなかった−
舌をその薄い皮膚の下で脈打つ筋に沿って這わせると、なまえは身震いした。
「ん…あぁ…DIO様ッ…」
なまえの甘い声が心地よく耳に響く。自分を縛り付けていた鎖から解放されたかの様に、なまえを押し倒し、重なりあった。
今自分が欲しているのは血ではない。目の前にいるなまえだった。
「DIO様…貴方は…私なんかで満足してはいけません…」
「…構わない。私が決めることだ。」
ゆっくりと一つになっていく。このまま時が止まってしまえば…なんて考えていた。
「私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。私は所詮ただの部下であってこんな気持ちを抱くのは間違えていると思っているからです。DIO様は快楽に溺れ、こんな風に乱れる私を見て浅ましいと思ったことでしょう。」
DIOの腕に抱かれているなまえは静かに涙を流していた。
「…何故涙を流す。」
「…幸せだからなのでしょうか…でも、DIO様はきっと呆れていらっしゃる。こんなはしたない私を見て…」
「私との行為で反応しなかったならそれでこそお前を殺していた。いいのだ、私の望んだ事だ。」
なまえの涙を拭い、視線を奪う。
「DIO、様…んっ…」
唇を重ねると、なまえの体が再び熱くなる。
「…なまえ…。お前だけは殺られるな…。命令だ。」
なぜなまえを食糧としなかったのか、それは自分は食糧以上になまえを必要としているからだった。
だとすれば生きていく上で必要なものに優先順位をつけるとしたら、自分は果たして命の源よりもこの女を選ぶのだろうか。
こんな事まで考えてしまう様になってしまったものだと、口元に笑みを浮かべるDIOであった。