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□約束
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僕には今守りたい人がいる。
DIOと戦うことを決めた日から、僕はこの命を燃やすことを覚悟していた。
しかし人を愛することは自分の覚悟をも揺るがしてしまうことなんだと知ったんだ。
約束
エジプトへと近付く僕らはホテルに一泊し、翌朝再び旅路へと戻る予定だ。
夜はひんやりとして夜風が心地いい。明るすぎるぐらいの月明かりが部屋を照らしている。
虫の音だけが静かな部屋に響いていた。
僕は隣で寝ているなまえを起こさないようにそっとベッドを抜けた。
この旅でなまえと出会い、僕は同じ目的を持つ者として共に目指すべき場所へと向かっていた。
旅の中で気がついた。ああ、僕はなまえのことが好きになっているんだと。
いつしか同じ目的を持つ仲間同士から、同じ気持ちで互いを思っている異性へと変わっていた。
大丈夫。なまえはハイエロファントグリーンも見えるし、僕の決して他人には見せない弱さも見えている。
心から僕という人間を理解してくれてるんだ。
部屋には冷蔵庫の明かりが漏れる。ペットボトルを口にすると、喉が潤いで満たされた。
何だろう、今日はよく喉が渇く。
日中戦った刺客との緊張感がまだ解けないのか…
明日はまた新たな刺客に襲われるだろう。いや、こうしている今でさえ危ういというのに。
命をなげうってでもジョースターさん達と旅を共にすることを決意したのに。なまえに出会ってからはどうも変なんだ。
"なまえを守るために生きたい。"
ずっと一緒にいたい。
この旅が終わったら、日本へ帰って、普通の高校生と同じようにデートをして。
戦いへの恐怖に怯えることない平和で平凡な毎日を送って。
…そういえばまだ体の関係は先になりそうだな。いけない、焦るな花京院典明。
なんて事を考えるとさ、僕は死が怖い。
戦いへの覚悟は変わらないが、僕が命を犠牲にしてでもDIOを倒せるのならと思っていたが、今は違う。
僕が生きて、そしてDIOを倒さなくては。
日本に帰ったら帰ったで、なまえに寄ってくる虫を追っ払ったり、あらゆる事からなまえを守っていくだろう。それに僕らには承太郎も味方してくれるんだ。心強いだろう?
いつかは僕らの間に生まれる子供もね。ああ、まだ気が早いかな。
ベッドに戻ると、月明かりに照らされ、反射しているなまえの綺麗な髪をそっと指で解かした。
「…ね。なまえ。」
まだ幼さの残る寝顔が愛しくて、一人でクス、と笑ってしまう。
それと同時に、頬を温かいものが伝った。
…あれ、こんな些細なことが何故こんなにも幸せなんだろう。
隣になまえがいるだけで、自分達の置かれている日常を忘れてしまうぐらい。
「…典明…?」
涙で滲む目の前には、うっすらと目を開けているなまえが映っていた。
「…すまない。起こしてしまったね。僕ももう寝るから。」
「…泣いてたの?」
上半身を起こし、僕に寄り添ってくれる。そのまま首に腕を回すと、そっと抱き締めてくれた。
暖かくて心地いい。微かに香るシャンプーの匂いに心が安らいだ。
「私も多分今、同じ思いだよ。」
…なまえの体が震えていた。
「…強くなるから…。僕はなまえが大好きだ。もっと君を知りたいし一緒にいたい。戦いのない日常に戻れたら…ずっとこうしていたい。」
「…うん。それも同じ。典明のこと離さないんだから。」
なまえは瞳いっぱいに涙を溜めて、僕を見つめたが、決して涙は溢さなかった。強いなぁ君は。
僕も力いっぱい抱き締めて、なまえの唇に自分の唇を重ねた。
深く、中に潜り込むかのような、濃厚な口付け。
もう涙は止まってしまったよ。僕だけ泣いていちゃ男らしくないだろ。
「私も大好き…。典明。」
僕の胸に顔を埋め、幸福感に満たされた表情で目を閉じたなまえ。
エジプトまであと少し。
もうすぐだよ。この戦いもあと少し。
きっとみんなで笑って、この旅を終えられることを願おう。
約束するよ。おやすみ、なまえ。