第一部

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「どこに置けばいい?」
「そのあたりに置いといて。」
「わかった。」



店に着き、言われたとおりクラウドは隅の方に木箱を置く。
店は果物屋らしくおいしそうな果物が所狭しと並んでいた。
初めて見るクラウドの姿を店に来ていた女性客は色めき立っていた。
客だけでなく、道行く女性も一度は立ち止まってしまう。
しかし、そんな視線には気づかないクラウドはセリアに話しかける。



「セリア何か手伝うことあるか?」
「いいえないわ。」
「…じゃあ少しあたりを見てから戻っておく。」
「はいはい。お昼ごはんは好きに食べてくれてかまわないわ。」
「ああ、わかった。」



クラウドが去っていって、落胆したのは女性客。
興奮したのは女主人のエティだった。
旦那もいて子供たちはすでに独り立ちしているエティ。
目下の悩みは自分の店で働いているセリアにいい人がいないことである。
そんなセリアが男を連れてきたのだ、興奮せずにはいられない。
エティはセリアの腕を取り、まくし立てた。



「ちょ、ちょっとセリアちゃん!誰よ、あのイケメン!お昼ごはんって、何々一緒に住んでるの!?いつ捕まえたのよ!!」
「エティさん、おはようございます。とりあえず落ち着いて?」
「ええ、おはよう。って落ち着いていられないわよ!いままでちっとも男の影がなかったのに!うちの看板娘にとうとう春が来たのかしら!?」
「違うわよ、ここにきたのはいいけど宿がなくて私の家に来てるだけ。それに私は娘って言う年じゃないわ。」



エティの勢いに押されながらもなんとか弁解する。
嘘はいっていない。
色々(浜辺で倒れていたことなど)省略しているだけだ。
それにまだ20代とはいえギリギリで娘というには些かしんどいものがある。



「まぁ、そういうなら信じてあげるわ。でも同じ家に住んでたら恋心が芽生えることだって…。」
「ないから、ほらお客様が待ってるよ?」
「えぇ〜。」



渋るエティの背中を押して待っている客の前へと連れて行く。
まだ物言いたげにセリアを見ていたがすぐに客に向き直った。



「(今度から連れてきちゃ駄目ね。)」



はぁ、とため息を着きながらセリアも仕事に戻った。



+++



一方クラウドは言ったとおり街を見て回った。
セリアと別れた店があるあたりは様々な店があり、家があったところは住居が多かった。
店は店、住居は住居で固まっているのだろう。
そして高い丘の上には巨大な建物。
反対に街を抜ければ海があった。
港にあるのはどれも木造の帆船で、奥歯をかみ締める。
まだ自分が知らない土地、行ったことのないにいるだけだとわずかな望みがあった。
しかしこうまで栄えている土地が知られないわけがない。
やはり、“セカイ”が違うのか。



「どんなファンタジーだよ。」



“セカイ”を越える方法なんて聞いたこともない。
むしろ他の“セカイ”があることすら知らなかった。
くそ、とイラつきながらも踵を返す。
帰れないかも。もう、会えないかも。
そんな不安だけがよぎる。
不安を打ち消すように頭を回す。



「…ぃ、お…さん。」
「まずは、ここのことを知ることが先決だな。」
「おーい、お嬢さん。」
「でも長く居座るのも…。」
「お嬢さん!金髪のお嬢さん!無視しないで!」



クラウドの肩が強く引かれた。
振り返った先にいたのは、紫色の長い髪をした男だった。



「お嬢さん、ちょっとオレとお茶しない?」



人当たりのよい笑顔で笑いかける男。
こんなナンパの常套句を実際に使うやつを初めて見たな、と普段なら思うだろうが。
いかんせんその常套句を言われているのはクラウドだ。
しっかりと肩までつかまれていては言い逃れもできない。
思わずキレてその男の顔を殴ってしまった自分は悪くない。
クラウドは倒れてしまった男を前に思った。
とりあえず、言わねばなわないことがある。



「オレは男だ。」





やはりシリアスが続かない…。
ここにきてやっと漫画キャラが出ました。
紫の長髪男は…はい、七海の女たらしです!

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