第一部

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友達になってくれ、というクラウドの表情には明らかな不安があった。
今までにどれほど大切なものを失くしてきたのだろう。
失くしてきた上で、もう一度手を伸ばすのはどれほど勇気がいるのだろうか。
シンドバッドの言葉を待つクラウド。
答えなんてもう決まっている。



「もちろん、友達になろう。」



そう言われ嬉しそうに微笑んだクラウドの姿に少し胸が高鳴ったのはシンドバッドだけの秘密だ。
頬が熱いから赤くなっているかも知れないが、クラウドはそういった感情には鈍い。
ジャーファルが席をはずしていて良かった、とシンドバッドはかなり真剣に思った。



「じゃあ、オレは部屋に戻るよ。」
「ああいや、待て。せっかく友達になったんだ。飲もうぜ!」



席を立ったクラウドの手をつかみソファに座らせた。
きょとんと見上げてクラウドは言った。



「…怒られるんじゃないのか?」
「大丈夫だ、終わってるから。」



正直に言うと今日の執務は終わっていない。
ジャーファルに明日怒られるかもしれない。
怒られてもクラウドと飲みたかった。
戸惑うクラウドをよそにシンドバッドはいそいそと酒を用意した。



「はぁ…あんまり強くないけど。付き合うよ。」



その様子に苦笑しながらクラウドは立つことをやめた。



「よしきた!」



シンドバッドに笑ってテーブルを挟んだクラウドの向かいに座ってグラスに酒を注いだ。
お互いグラスを持ってカン、と音を立てて合わせる。
最初はアルコール度数の少ない酒でだんだん度数を上げていった。
ジャーファルが執務室に戻ってくるころには二人とも完全に酔っていた。
シンドバッドはまだ酒を空けていて、クラウドは落ちる寸前だ。



「なっ…なんで酔いつぶれているんですか!」
「おージャーファルー。王様まだつぶれてないよー。」
「確実に酔ってますよね!?まだ書類は残っているのに!」



上機嫌で笑いかけるシンドバッドの頭を手に持っていた書類で叩く。
けたたましい音を立ててテーブルに倒れたシンドバッドはそのまま寝てしまった。
決して気絶したのではない。
その音にクラウドは閉じていた目を開けた。



「すまない…終わった、と言ったから。」
「はぁ…いえ、いいですよ。
まだ夕食後に来ただけまし…です、よ。」



クラウドの方へ向いたジャーファルの言葉が詰まる。
北方出身のクラウドは肌が白い、だが今は酔いのせいか頬が赤くなっていて。
寝る寸前だった瞳はぼんやりとジャーファルを映している。
極め付けが二人の立ち位置だ。
立っているジャーファルと座っているクラウド、必然的にクラウドは上目遣いになっていた。



「っ…!!」



はっきり言おう、かなりの色気がある。
幼い頃から暗殺者として生き、シンドバッドを暗殺しそこなってからはシンドバッドの仲間として、臣下として生きてきた。
色恋沙汰とはほぼ無縁だったジャーファルにとって今のクラウドは刺激が強すぎた。
フルフルと首を振って雑念を払う。



「へ、部屋に戻りましょう?」



歩けますか?とジャーファルはクラウドに手を伸ばす。
その手を取るがバランスが取れずにまたソファに座ってしまう。
手をつないだままだったのでジャーファルがクラウドの膝の上に乗ってしまった。



「……。」
「……。」



何が起こったのかわからず一瞬考えるが、すぐに理解してジャーファルは慌てて離れた。



「す、すみません!」
「……。」
「クラウド?」



離れたのはいいがクラウドから何の反応がないことに心配になり、顔を覗き込めばその空色の目は閉じられていた。
なんのことはない、クラウドは酔いつぶれて眠っていた。



「はぁ……い、いや別に眠ってて良かったとか、残念とか…起きててまずいことはしてません。ないない、絶対に。ありえません。」



思わず安心して息を吐いたジャーファルは首を振ってクラウドを寝かせた。
熱帯のシンドリアといえど布団がないのはまずいだろう、と取りに行った。
しかし廊下を歩くジャーファルの頭によぎるのは先ほどのこと。



「思ったより細い…って、違う。違う。私は彼のことなんて…。」



「ジャーファルさん、何つぶやいてるんだ?」
「さぁ…。」
「わかんねぇのかよ魔法バカ。」
「剣術バカに言われたくないわ!」
「なんだと!」
「なによ!!」



その姿がシャルルカンとヤムライハに目撃されていたとはジャーファルは知らない。





恋愛要素って入れにくいですね。

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