第一部

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クラウドが目を覚まし、身体を起こすが二日酔いなどはなく、頭痛も吐き気もなかった。
横に目線を向ければ腕を組んで仁王立ちしたジャーファルとその前に正座するシンドバッドがいた。
呆気に取られて見ていたがシンドバッドと目が合い、途端にすがるような目をされた。
そんな目をされて放って置けるほどクラウドも非情ではなく、ジャーファルに声をかけた。



「これ、アンタがかけてくれたのか?」



自分にかかっていた布団を持ってシンドバッドから意識をそらそうと試みる。
そう簡単にいくとは思っていなかったが、ジャーファルはクラウドと目が合った瞬間にその顔を真っ赤に染めた。



「…べ、別にあなたのためじゃありませんよ。客人に風邪などひかれては溜まりませんからね!」
「そ、そうか…。」



ジャーファルは目線をそらして言った。



「そうですよ!じゃあ、私は朝食の準備がありますので。」



言い逃げしてジャーファルは部屋を出て行った。
去ったジャーファルの背中を見ていた二人だが思うところは違った。
クラウドは何か彼に怒られる様なことをしてしまったのか、と考え。
シンドバッドは何だあの恋する乙女のような反応は、と臣下の変わり様に驚いていた。



「おい、クラウド。昨日酔ってジャーファルに何かしたのか?」
「…何もしてないと思うんだが。やっぱり何かしたのかな。」
「やっぱり…って前科持ち?」
「オレが酔いすぎて絡んだ人は次の日に顔を赤くして怒ってる。
けど…そんなに飲んでなかったはずなんだが。」
「おこ…ん?」



うーん、と考え始めたクラウドにシンドバッドは首を傾げた。
クラウドは怒っていると思っているようだが、あのジャーファルの反応は照れているというほうが近いだろう。



「(酔ったクラウドはどうなるんだ…?)」



先に寝てしまったため、昨夜クラウドとジャーファルになにがあったのか知る術はない。
が、ものすごく気になる。
あの堅物のジャーファルがあそこまでなるクラウドの酔い方が凄く気になる。



「(よし、また今度飲ませよう。)」



そうシンドバッドは心に決めた。



+++



あの後すぐに執務室に戻ってきたジャーファルに「遅いです。」と理不尽に怒られつつシンドバッドとクラウドは食堂に向かった。
酒を飲んでいた二人を気遣ってか食べやすいスープが置かれていた。
二人は食べ始めるとシンドバッドが話しかけた。



「なぁクラウド。ずっと思ってるんだが。」
「ん?なんだ、シンドバッド…王。」
「そうそれ!友達なんだから王はいらない!
毎回言いにくそうだし。」
「ちょ、こぼれる。」



ドン、とテーブルを叩くので皿の中でスープが揺れる。



「あ、悪い…じゃなくて、聞いてたか?オレの話!」
「でもアンタは王様だろ。」
「オレは呼び捨てがいいんだ!呼んでみろ。」



強くクラウドの肩をつかみシンドバッドは迫る。
呼んでみろといわれればますます呼びにくくなる。
またクラウドの周りに強引な人がいなかったせいか、クラウドは迫られるのに慣れていない。
離そうとシンドバッドの顔面を押す。



「っ、離せ。」
「呼んだら離してやる。」
「離したら呼んでやる。」



近付こうとするシンドバッドと離れようとするクラウド。
どちらかが力尽きるまで続くと思われたやり取りだが。



「あー!!王様がクラウドを襲ってる!!ちょ、マスルール!」



朝食を食べにきたのだろうシャルルカンとマスルールによってクラウドとシンドバッドは離された。
正確にはマスルールがクラウドを持ち上げて離れたのだが。
シンドバッドと少し離されたところに下ろされたクラウドは安心したように息を吐く。



「助かった、マスルール。シャルルカン。」
「助かったって…シンさん、やっぱり襲ってたんすか。」
「王様朝から盛んないでくださいよ。」
「なっ、ちが!クラウド誤解するようなことは言うな!」
「誤解もなにも、無理矢理だったのは事実だろ?」



うわー…、と心底引いた表情でシャルルカンとマスルールは距離を置く。
クラウドの言っていることは事実ではあるが、言葉が足りない。無理矢理しようとしていたのは、名を呼ばせることであって決してそういった行為のことではない。
しかし悲しいかな普段の行いが悪いせいでどうしてもシャルルカン達には行為を迫っていたようにしか見えない。

そしてここにも勘違いした人が一人。



「シンドバッド王?一から十まで全て教えてくれますよね?」



いつの間にかシンドバッドの後ろに立つジャーファル。
笑顔なはずなのに隠すことのない覇気が怒っていることを示していた。
流石のシンドバッドも頬をひきつらせる。



「アンタは客人になにやってんだぁあ!!」
「誤解なんだぁぁああ!!」



まだ日が登って間もない王宮にシンドバッドの悲鳴が響いた。



「誤解なのに…。」
「大丈夫か?シンドバッド。」



怒ったジャーファルにシンドバッドの
弁明は聞き入られず、しこたま怒られたシンドバッドは机に突っ伏していた。
そこにシャルルカン達と朝食の続きを終えたクラウドが戻ってきて声をかける。



「クラウド…お前なぁ!」
「すまない、シャルルカンに言われて気付いた。あれは言葉が足りなかった。」
「…わかったならいいよ。」



恨めしそうにクラウドを見るが申し訳なさそうな表情を見て怒る気も失せた。
頭が冷えたところでふとシンドバッドは気付いた。



─大丈夫か?シンドバッド。



自分はこう声をかけられなかったか?
勢いよく顔を上げる。



「クラウド!今名前…。」
「離したら呼ぶと言ってたからな。」
「っ……クラウド!!」
「うわっ。」



シンドバッドは感極まってクラウドに飛びついた。
自分より大きな男に飛びつかれたことで倒れてしまい、またそれを目撃したジャーファルにシンドバッドは怒られることになった。





王様怒られすぎ…。

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