第一部

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手合わせの後。ジャーファルに連れられクラウドは新しい部屋に着いた。
特に荷物もないので引越しというほどではなく、すぐに終わったため図書館にいこうと提案された。
この“セカイ”についてクラウドは知らないことが多すぎる。

二人で歩いていると鐘の音が鳴った。



「さっき鳴ったばかりだよな?」
「ああ、これは違うんですよ。この鐘が鳴ったときは八人将全員集合なんです。」



あなたも着いてきてください。とジャーファルはクラウドの手を引いて駆け足になる。
頭にハテナを浮かべながらも着いていく。
二人が着いたときにはすでに全員が集まっていた。
そして全員が見つめる先を見てクラウドは絶句した。



「なっ…何だあの馬鹿でかいの。」
「ん?おークラウド、来たのか。」



クラウドの声にシンドバッドが振り返って声をかける。



「いや…あれ、いいのか?」



クラウドが驚愕した理由。
果樹園らしき場所で暴れまわっている大きな生物。
しかしそんな大きな生物を前にしても国民は誰一人慌てた様子はなく、むしろ何かを楽しみにしているようだった。



「いいんだ、これはシンドリアの一大イベントだからな!
南海生物を八人将が倒して皆で食べる、謝肉祭だ。」
「まはら、がーん?」
「クラウドが倒してみるか?」



あれ、といまだ暴れている生物を差してシンドバッドが言う。
本来なら八人将の誰かを指名するが、シャルルカンとの手合わせからクラウドでも可能だろうと思ったのだ。



「そうよ!クラウド、魔法が見たいわ!」



嬉々として提案に乗ったヤムライハをきっかけとして次々賛成の声が上がった。



「剣じゃだめか?」
「ええ!魔法がいいのよ。」
「絶対?」
「絶対!」
「…あとで文句言うなよ?」



しぶしぶ、とクラウドは前に出る。
南海生物は近づいてきたクラウドに狙いを定めて襲ってきた。
手を前に出して、召還体勢に入る。
南海生物もまた水を吐き出した。



「シヴァ。」



一瞬で吐き出された水もろとも南海生物が凍りついた。
その光景に国民はもちろんシンドバッドたちも呆気に取られた。
綺麗な彫刻のように凍りついてしまった南海生物。
パフォーマンスとしては最高だ。
しかし問題がひとつある。



「…どうやって食べようか?」



シンドバッドの一言に、聞こえた全員が頷いた。



+++



「だから文句は言うな、といっただろう。」
「ほら、元気出せよ。
文句は言ってないから、な?」



むっすーと効果音が付きそうなほど拗ねてしまったクラウドを必死でなだめるシンドバッド。
魔法で倒すとなるとシヴァのマテリアしか持っていないクラウドは必然的に大技しかつかえない。
何とか溶かして切り分けられたのは半分だけだった。尾から身体の半分まで、顔はまだ凍ったままだ。



「だから剣がいいと言ったんだ。」
「まぁまぁ、それにしても…凄い威力だな。丸々一匹凍らせるって。」



シンドバッドは感心したように南海生物の方へ顔を向ける。
そこでは国の子供達が遊んでいた。



「子供達も喜んでいることだし、結果オーライってことで…な?」
「そうですよ、せっかくのお祭りなんですから。果実酒でも飲んでください。」



ジャーファルがグラスをクラウドの前に置く。
中には果実酒が注いであり、その他にも料理を並べていく。



「ほら、これおいしいですよ?」
「ジャーファル君、オレの酒は?」
「ご自分で取ってきてください。」
「ええー…クラウドとのこの違い何?」
「日ごろの行いでは?」



ぶーぶーと口を尖らせて言うシンドバッドにジャーファルはにっこりと良い笑顔で言い切った。
しぶしぶと酒を取りに行くシンドバッドの背中は王様の姿には到底見えない。
クラウドもまたいつまでも拗ねているわけにはいかず、料理に口をつけた。
その時思い出したのは、今朝のジャーファルの様子。



「なぁ、オレ昨日何かしたか?」



急な質問にジャーファルは首を傾げたがすぐに理解したようで少し顔を赤らめた。
それを見てやっぱり何かしたのか、とクラウドは頬を掻く。



「すまない、いつもは飲み過ぎないように気をつけているんだが…。」
「い、いいえ。大丈夫ですよ!何もなかったんで!」
「そうか…?」

「おーいクラウド、飲んでるかぁ?」



しどろもどろになってしまったジャーファルに首をかしげているとすでに酔っ払ったシャルルカンがやってきた。
声をかけられ振り返った瞬間、クラウドの口に酒瓶が押し込まれた。
反射的に流れ込む酒を飲み込む。



「良い飲みっぷりだな!」
「…ちょ、シャルルカンやめなさい!」
「えー、何でですか?ジャーファルさん。」



はっとして慌てて引き離すが、すでにクラウドは飲みきっていた。
クラウドの酔う姿はいろいろ危ない。
昨夜の様子を知っているからジャーファルは慌てた。



「クラウド、大丈夫ですか?」
「ジャーファルさん、心配しすぎっすよ。」
「そうだぞジャーファル、今からおもし…良いことが起きそうだ。
こっちの酒もうまいぞ。」



いつのまにか戻ってきたシンドバッドがジャーファルを離す。
半分ほど本心が漏れているが気にせず、クラウドに酒を勧めた。



「あんた、珍しく素面だと思ったら何企んでんだ!」
「いやなに、クラウドの酔った姿を見たいんだよ。
ほらシャルルカン、ジャーファルを押さえて。」
「仰せのままに!」
「離しなさい!」



がしりと後ろからジャーファルを押さえ込む。
その間にシンドバッドは次々酒を薦めていく。すでに酔い始めているせいかクラウドも黙々と飲み続けた。
少しして飲むのをやめたクラウドにそろそろか?と見る。
クラウドもまたシンドバッドを見た。



「あー…これはジャーファルにはきついな。」



昨夜、ジャーファルはこれを目の当たりにしたのだろう。
美形の上目遣い、しかも目が潤んでいたら破壊力は抜群だろう。
考えていれば影が差した。
顔を上げればクラウドが立っていた。



「どうしたクラウド。」
「…おなか減った。」
「料理はまだまだたくさんあるぞ?」
「おなか減った。」
「うん…?」



おなか減った、と言いながらも料理の方に行くわけでなくシンドバッドに近づいて膝に向かい合うように座った。
そして。



「っだあ!?」
「シン?」
「く、首!噛まれた。」
「ええっ、ちょ…離しますよ?」
「オレも手伝います!」



そうクラウドがシンドバッドの首に手を回したかと思いきや、噛まれた。
ジャーファルとシャルルカンでクラウドを引き離そうとすればあっさり離れた。



「うわー、すっげえ歯型ついていますよ?」
「ああ、だろうな。」



首筋にはっきりと歯型がついていた。若干血が滲んでいるような気もしない。
傷を見てシャルルカンは苦笑した。
シンドバッドもまた噛まれたときの痛みを思い出しては顔をゆがめる。



「わ、わ…クラウド!?」
「ジャーファル?」



慌てた声の方に目を向ければ。
ジャーファルがクラウドに襲われていた。



「って、おおい!?」



今度はシンドバッドがクラウドを引き離す。



「何してんの?ナニしてたの!?」
「下品なこと言わないでください!クラウドが眠いと倒れてきたんですよ!」
「王様ークラウド大変なことになってますよ?」
「は?って何で脱いでんの!」
「…暑い。」
「脱ぐな!なんかいろいろ危ないから脱ぐな!」
「それをあなたが言いますか?」
「王様だって脱ぎ癖ありますよね?」

「だー!!今はそれどころじゃないだろ!」



いまだ服を脱ごうとするクラウドに布を巻きつけ、動けないようにする。
それでも抜け出そうとするクラウドを押さえながらシンドバッドは頭を抱える。



「(興味本位で酒を飲ませるんじゃなかった!)」



シンドバッドの本日の後悔である。





数日振りにしてこのクオリティ…スランプ?

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