第一部

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時は少し遡る朝、シンドリア王宮の白羊塔の会議室にて。
毎朝の会議が行われる。
円卓を囲むようにしてシンドリア国の王、シンドバッドとシンドリア国の守護神、八人将の姿があった。
その八人将のうちの一人、ジャーファルがシンドバッドに報告をする。
表情にはわずかな翳りが見える。



「聞き込みをしたところ現在行方がわからないのは15人で、主に幼い子供たちで若い女性も何名かいます。
犯行は夕暮れ以降人目のつかない場所で行われています。」
「何か犯人につながるようなことは?」
「唯一逃げおおせた少年の証言では、犯人は複数でマントを被って姿は不明。その内の一人は長い何かをを腰に差していたとのことです。」



それ以上のことはまだ、と覇気のない声で答える。
連日に及ぶ失踪事件。
一人二人ならば家出を疑うが、しかし15人もとなると疑うべきは人攫い。
そして決定的なのが先の少年の証言。
少年は夕暮れ時、妹と二人で路地裏を歩いているところ攫われかけたらしい。
何とか逃げたのはいいが妹はさらわれてしまった。
陽も落ち薄暗い中ではシルエットしかわからなかった、と泣きながら語った。



「それで、その少年は今どうしている?」
「酷く傷心しています。」
「そうか…。」



シンドバッドはガシガシと頭を掻いて苛立ちをあらわす。
自分の国で起こる犯行もとめられない。
そのことがもどかしく腹立たしい。



「あまり時間をかけるのは得策じゃない。逃げられたらそこで終わりだからな。
今日は八人将全員で取り掛かるぞ。」
「仰せのままに、我が王よ。」



それぞれ真摯な表情でうなづく。



「ドラコーンとスパルトス、ピスティは港で船の監視。出航する船はすべて調べてくれ。」
「わかった。」
「かしこまりました。」
「了解だよ。」
「マスルール、ヒナホホは森の捜索。」
「了解っす。」
「おう、まかせとけ。」
「残りのシャルルカン、ヤムライハ、ジャーファルはオレとともに街での聞き込みと警備だ。」
「仰せのままに。」
「わかりました。」
「ええ、それが無難ですね。」




担当を振り分け会議は解散となった。



+++



シンドバッドがクラウドを見つけたのはクラウドがセリアと離れたすぐ後だった。
最初は太陽に照らされた金髪に目が奪われた。
次に目に入ったのはその腰の大きな剣。



「(犯人の特徴は長いものを腰に差している、か。)」



念のために、と後をつける。
きょろきょろと確認するように歩く姿は初めてシンドリアを訪れる観光客にも見えるし、次の獲物を探す犯人のようにも見える。
特定できるまで後をつけるのが危険も少ないだろうが、それでは時間がない。
仕方ない少しの危険を恐れてはいられない。



「おーい、お嬢さん。」



お嬢さんじゃないのはわかっているが、こうすれば詫びだと言って誘い込めるだろう。
二人で話せば白か黒か断定できる。

まず第一段階としてシンドバッドのことを知っているか否か。
顔を合わせても特に変わらないクラウドの様子にシンドバッドは息をつく。
クラウドは自分のことを知らない、なら最初から警戒されることはないだろう。



「お嬢さん、ちょっとお茶しない?」



怒るだろうとは思ったが殴られるとは思わなかった。
シンドバッドは細腕に似合わず意外と力強い拳を頬に受けた。



+++



ところ変わって食堂。
気付かれないようにクラウドの様子を観察する。
綺麗な金髪と見慣れない上質な服。
そしてメニューを探している様子から字を読むことができるのだろう。
ということはそれなりに教育は受けているということか。



「ここは店員にその日のメニューを聞いて頼むんだよ。日々入荷した食材によってメニューが変わるからな。」
「へえ、毎日来ても飽きないな。」
「ああ、それにその方が字が読めない人にも良心的だろう。」
「…。」
「(なるほど、鈍感なわけではないな。)」



警戒し始めたクラウドにシンドバッドは一瞬目を細める。
おそらくこちらが気付いていることは知られていない。
自分の表情を隠すことは長年の旅のうちで身につけた。
こちらが探りを入れているとわかって何に警戒したのか。人攫いか、その他か。
前者なら黒、後者なら白。
果たしてどっちか。



「さて、料理がくるまで時間があるな。そうだ君の事を聞かせてくれないか?」



店員にシンドバッドの身分がばれそうになるが、今まで何度かお忍びで来たことがあるためか何も言わずに厨房に戻った。
さぁ、ここからが正念場だ。
クラウドも腕を組み話す体制になる。



「アンタは何が聞きたいんだ?」
「そうだな、君の出身は?」
「ここよりは寒い小さな村だったよ。」
「なら北のほうか。何をしにシンドリアへ?」
「たまたま行き着いたところがここだっただけ。」
「行き着いた、ねえ。じゃあ君は…人身売買をどう思う?」
「人身売買?」
「そう、人を売ってお金にしたり。人を買って奴隷にしたり。
それを君はどう思う。」



急な話題転換。
急なことには人間すぐ対応をできない。クラウドの眉間が一瞬、皺が寄った。
明らかな嫌悪感、それだけで十分だ。
クラウドは今回の事件に無関係。



「はは、すまなかった。食事前にする話題ではないな。」



ならばもう聞くこともない。
シンドバッドはすぐに食べてしまおうとご飯を食べ始めた。






04のシンドバッドサイドです。
こんな考えがシンドバッドにはありました。

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