第一部

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人攫いを捕まえた、とジャーファルからルフの瞳で連絡を受けたシンドバッドはすぐにジャーファルの元へ向かった。
途中ヤムライハとシャルルカンも合流し路地裏へと足を踏み入れた。



「ジャーファ……ル?」
「見せてください。」
「嫌だ。」
「見せなさいと言っているんです。」
「嫌だと言ってるだろう。」
「おーい、ジャーファル君ー?」



そこではジャーファルがクラウドに迫っていた。
いや実際は違うのだろうが、シンドバッドたちの目にはそう映った。
ジャーファルがクラウドを壁に追い詰めているのだ、勘違いしても仕方ない。
あっけにとられながらもシンドバッドが声をかけるとクラウドが気づいた。



「お、おい。あんたの仲間だろ。」
「え?あ、シン。」



今気づきましたと言わんばかりに驚いた様子で名を呼んだ。



「あ、シン。じゃないからね!?捕まえたって報告を聞いて急いで来たんだぞ?」
「ほら、アンタは離れろ。」
「でもあなたは怪我を…。」
「これくらい平気だ。」
「ねぇ…そろそろ王様に説明して?」
「犯行現場を押さえて捕まえた。」



まったく話のついていけないシンドバッドの質問に答えたのはクラウドだった。
ジャーファルの肩を押して離れると倒れている男たちに近づいた。



「こいつらが人攫いだ。で、この子が被害者。
あ、誰かこの子を家に帰してやってくれないか?」
「では、私が。」
「じゃあ頼む。えと…。」
「ヤムライハよ。」
「頼むヤムライハ。」



クラウドは順番に指差していって説明をする。
最後の少年を抱き上げて言うとヤムライハが手を上げた。
ヤムライハは少年を抱くと街のほうへと歩き出した。



「いや、そうではなくてな…ってクラウド?」
「え?シン知り合いなんですか?」



驚いたようにジャーファルがシンドバッドとクラウドを交互に見る。
クラウドも今になってシンドバッドが昼の男であるとわかったのか表情を歪めた。
そしてあからさまにシンドバッドと距離をあけた。
微妙な空気が間に流れる。



「ちょ…王様あいつに何かしたんですか?」
「い…いや、したようなことも…なくはない。」
「どっち何ですか、シン!」
「あ、あははー。」


心当たりはおおいにある。
思い返されるのは昼のこと。
わざと女と間違えたり、意地の悪いことを言ってみたり…いろいろしすぎた。
シンドバッドは乾いた笑いしか出てこなかった。



「そ、それより!何でクラウドがここにいるんだよ!」



話題を変えた。
ばればれではあったが追究するものはいなかった。



「オレの知り合いが人攫いにあった。」
「で探してたらたまたま、現場に遭遇したのか?」
「いや、ジャーファルが持っていた地図で推測した。」
「は…?」



さらりと言ってのけたクラウドに全員が言葉を失った。
地図とは市街図に人攫いが起きたであろう場所を記したものだ。
しかし場所はランダムで規則性などなかったはずだ。



「でも私は見せた覚えがないのですが…。」
「エティのところで机の上に置いていたのを勝手に見た。」
「置いてましたけど…。」
「いやいや、ジャーファル君気になるのはそこじゃないだろ。
どうして予測できたか、だろ?」
「実際に見て説明したほうが早い。あの地図を貸してくれ。」



すぐにジャーファルが地図を取り出した。
やはり地図にはランダムに印がついている。



「ランダムに見えるけど、規則がないわけじゃない。」
「どう見てもランダムじゃねえか。」
「距離が一番遠い二点を繋ぐ線を直径にして円を書く。そしたら当たり前だけど全部の印が円の中に入るだろ?」



指で円を書きながら説明をする。
裏路地で四人の男が座り込んでいる姿は奇妙でしかないが誰も見ていないのでいいだろう。
ちなみに犯人はジャーファルの紐によって縛られているので逃げ出す心配はない。
クラウドは説明を続けた。
地面に適当な棒を拾って円を書いて棒をシンドバッドに手渡す。



「じゃあシンドバッド…王、こっちの円の中にランダムに十個くらい印をつけて。」
「とってつけたような敬称だな。ランダム…こうか?」
「この二つを見比べて何か思うことないか?」
「似て…いますね。」
「ランダムなんだから当然じゃねえのか?」



シンドバッドが書いた印と地図に書かれた印はジャーファルの言ったとおりその二つは似ていた。



「似ているのが正解、かな。
アンタこの印は何を考えて書いた?」
「は?それはランダムに…。」
「ランダムに見えるように考えて書いただろう?他の印と近づき過ぎないように均等に距離をとって。」
「あ…そうか!」
「ジャーファルさんわかったんですか?」
「なるほどな。」
「ええ?王様も!?」



ジャーファルとシンドバッドはわかったようだがシャルルカンはわかっていないようだ。



「もしアンタが人攫いをするとして、同じところで人を攫うか?」
「いや、一度したら警戒されてるだろ。」
「そう、だから次に人を攫うときは離れた場所でする。
それを何回か繰り返すと場所は限られてくるんだ。
ほらこっちの地図の印、ここの地域では少ないだろう」
「ああ!そっか!」



ぽんと手をたたいて納得する。
やっと理解してくれたことにクラウドは息をつく。



「ん?でも何でこの円なんだ?」
「この円は中に犯人が潜伏していることを条件とした仮説なんだよ。
あんまり離れすぎるとつれてくるときに見つかるリスクが高いだろう?
本当にこの円の中にいるかはわからなかった、だからあくまでも推測なんだよ。」
「ほへー…。」



そこでジャーファルが思い出したように言う。



「ついでにいいですか?」
「なんだ…?」
「彼に攻撃を当てたときですよ。あなたは前にいたのに彼は後ろを向きましたよね?」



三節棍を使った男を指差す。



「ああ。そいつは人一倍耳が良かったんだよ。
言ってただろう?誰かが来る前に聞こえる、って。」
「そういえばそんなことも…。」



それでも、クラウドの聴力には及ばず先に気づかれるという結果になったが。



「それこそ遠くの足音ですら聞こえるほどにいいんだよ。
他にも匂わせることはあった。」



間合いを詰めた際、クラウドの姿を見る前に武器を振るったこと。
目眩ましをしたときはおそらく足音でクラウドの場所を把握していた。
人より聞こえる耳。
それは強力な武器となる。



「だから耳を潰したんですか?」
「聞こえは悪いが、そういうことだ。
片耳が聞こえなくなれば方向は分からなくなるからな。」



男は気付かれないと思っていたのだろう。
だから耳が聞こえなくなった瞬間脱走を試みた。
己の聴力を過信してそれだけに頼っていたから足元を掬われた。



「お前、すげーな…。」



クラウドの説明にシャルルカンが感心したように言葉を漏らす。
口には出さないがジャーファルもシンドバッドも同じようにクラウドを見ていた。
短時間でこれほどのことを考えられるのものなのか。



「じゃあさ!こいつらの潜伏場所とかもわかんのか?」



シャルルカンがクラウドに詰め寄る。
自分たちではわからなかった。しかし考え方の違うクラウドならばわかるのでは、と期待した。



「いや、流石にそれはわからない。」
「そうですか…手っ取り早く拷問でもしますか?」



残念そうに返したのはジャーファルだった。






な、長い。
主人公の説明がわかりにくかったらすみません。
それっぽく書いてはいるけれど正確な理論ではないです。

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