第一部

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「クラウド!こっちは全員脱出したぞ!」
「こっちも終わった。」
「お、おう…そのようだ。」



奥の部屋からシンドバッドが姿を現す。
被害者は全員安全な場所に移動できたようだ。
クラウドもまた残っていた最後の男を蹴り飛ばして戦闘を終了させた。
シンドバッドも手助けをしに来たつもりだったので出鼻をくじかれた。



「ずいぶん呆気なかったな。」



英雄を倒したお前に勝てるやつはそうそういねーんだぞ、と。
そうクラウドと知り合いの赤髪の彼は突っ込むだろうが、その彼はここにはいない。
派手に立ち回りをしているうちに、気づけば全員が地に伏せていた。というのがクラウドの認識だ。



「ほら、お前の探し人はいるか?」



シンドバッドに連れられ、少し離れた宿へと向かった。
そこの一室には子供と女性が数十名いた。
安心して泣き出す者や、抱き合うものがいる中クラウドは一人の女性の元へ行く。



「セリア!」
「クラウド!?え、どうしてここに。」
「怪我はないか?」



驚くセリアをよそに、セリアの前に膝を付いて怪我の有無を確認する。
見える場所に目立った痣はなく安心から息を吐いた。
乱暴なことはされていないようだ。
良かった。



「クラウド…彼女、混乱しているぞ。」



困ってしまったセリアに助け舟を出したのはシンドバッドだ。



「説明して、クラウド。」



シンドバッドとジャーファルがここにいるのはわかる。
自国での人攫い事件に彼らが黙っているはずがない、助けてくれるとしたら彼らだとセリアは信じていた。
自分の王を、そしてその八人将たちを。
しかしその中にクラウドもいるのは不思議だった。



「ユナにセリアが攫われたと聞いて探してたんだ。」
「ユナ、ユナは平気!?」
「ああ傷ひとつない。」
「そう…よかったっ!」



ぽろぽろと涙を零し始めたセリアにクラウドはうろたえる。
泣いている女性にはどうしたらいいかわからない。
逆に女性の扱いには心得のあるシンドバッドがすぐ隣に来てセリアの涙を拭ってやった。



「お嬢さん、泣くのはまだ早い。
はやく帰ってその子を安心させてあげなきゃ。」
「シンドバッド王…ええ、そうですね。」
「そうそう。美しい女性が泣いていては心苦しいからね。」
「まぁお上手で。」



鼻をすすりながら力強くうなづくセリア。
そしてシンドバッドの言葉に小さな笑いが生まれる。
その手際のよさは流石としか言いようがない。
七海の女たらしという名は伊達じゃない。



「おにーちゃん。」



二人の会話に口が挟めずにいたクラウドの服を少年が引っ張った。



「どうした?」
「あのね、助けてくれてありがとう。」
「…どういたしまして。」



その少年の両脇に手を入れ、抱き上げてたずねた。
すると少年は恥ずかしそうに笑いかけながら言う。
純粋な言葉にクラウドも少し照れてしまい、つられたように微笑む。
様子を見ていたほかの子供たちも抱っこ、とクラウドに近づいてきたので順番に抱き上げていった。

一方、セリアとシンドバッドはそんなクラウドの姿を見ていた。



「モテモテですね、クラウド。」
「だな。
そうだ、今回の事件クラウドのおかげで解決したんだぞ?」
「え!?そうなんですか?」
「ああ、あいつはすごいぞ。頭はいいし強いし、お嬢さんもいい男を捕まえたね。」
「ちっ、違いますよ!彼はそんなんじゃ。」
「そんな、とはどんなだ?」
「もうっ意地悪ですわ、彼はただの同居人です。海岸で倒れていたのを保護しただけです。」



ニヤニヤと笑いながら言うシンドバッドにセリアは必死で弁解する。
しかし、シンドバッドは引っかかることがあった。



「海岸で…?」



ここ数ヶ月、近隣での船の難破の報告は聞いてない。
おそらく聞こえていたであろうジャーファルにも目をやるが、彼も横に首を振る。
貿易船でやってきたという可能性がないわけではない。
しかし、それでシンドバッドのことを知らないのはおかしいだろう。



「(彼はどこから、どうやってきたのか。)」



シンドリアの結界にも引っかかった様子はない。



「(クラウドは何者なんだ?)」



回転の速い頭脳と類稀なる戦闘スキル。
昼間は人攫いではないことで追究はしなかったが、これは一度調べる必要がある。





意外に呆気なかった人攫い編は次で終わりです。

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