第一部

□21
1ページ/1ページ




「クラウドー。クラウドー!!」



太陽が真上まで昇った頃。
シャルルカンがクラウドの名を呼びながら王宮を走っていた。
用といった用ではないのだが、手合わせがしたいと思い立ったのだ。
ヤムライハから自分はクラウドの魔法を見せてもらえたと自慢げに言われならば自分は剣術を見せてもらおうと思った。
剣術ができるかわからないが大剣を下げていたからできないことはないだろうと予想していた。



「クラウドってばー!」
「犬猫じゃあるまいしそんなに呼ばなくても聞こえてるよ。」
「おっ、見つけた。何してたんだよ。」
「…部屋の掃除。」



クラウドは客室から呆れたように出てきた。
シャルルカンの質問に少し言いにくそうなのは、一向に部屋が綺麗になっていないからだ。
朝食の後すぐ始めたのに何故か終わりが見えない。まずシーツがうまく畳めず何度も折りなおしていた。
シャルルカンはほーと感心したように聞いていたが、クラウドの腕を取った。



「そういうのはさ、女官に任せてちょっと付き合えよ!」
「かまわないが…何をするんだ?」
「手合わせだよ、てーあーわーせ!」
「あ、おい!」



行くぞ!とそのままクラウドの腕を引いて中庭まで走っていった。



+++



中庭に二人が着いたときにはシンドバッドとジャーファル、ヤムライハ、マスルールがいた。



「はぁ!?何でいるんだよ!」
「剣術バカの考えることなんてお見通しなのよ!」
「なんだと?」
「なによう?」



顔を合わせた瞬間掴み合いの喧嘩を始めてしまった。



「すまないなクラウド、実力を見てみたくて。」
「別に良いけど。仕事は?」
「この後に連れていくっす。」
「ほら、シャルルカン。先に手合わせでしょう?」
「あ、そっすね。」
「あんたなんか負けてしまえ。」
「ってめ!」



何とかジャーファルがヤムライハとシャルルカンを引き離され、シャルルカンは剣を構える。
クラウドもまた腰の剣を抜いた。
腰に下げている姿は何度も見てたがいざ構えると剣の大きさを再確認する。



「そんなでかい剣、使えんのかよ。」



男にしては細身な身体のクラウドはお世辞にも力があるとは思えない。



「嘗めるなよ。」
「っつ…。」



一瞬、たった一瞬で間合いを詰めたクラウドに驚きを隠せない。
また、そのスピードのまま頭上から切りかかられ何とか横によける。
その攻撃を受けようものなら自身の剣が折れてしまうだろう。



「は、はは…いいじゃねえか!おもしれえ!!」



その攻撃には驚かされたが、それよりも闘争心が勝る。



「こっちからも行くぜ!」
「来い。」



シャルルカンもまたクラウドに切りかかる。細身の剣による攻撃はすばやく、一撃の合間が短い。
それでもクラウドは引かず攻撃を受けていた。がやはり大きな剣では立ち回りが大きく、だんだん間に合わなくなってきた。
クラウドは剣を握る手に力任せにシャルルカンを弾き飛ばす。



「くっ…。」
「っうお!?」



その隙に剣をばらして二本を手に取り、残りは腰に差す。
もともと六本の剣をまとめていたそれは一本ずつ少しは軽くなる。
そして両手に剣を持ち構えた。
ばらしたといってもその一本は普通より大きい。それを片手で持つクラウドに力の弱い印象は持てない。



「つえーなクラウド。」
「それほどでも。」



シャルルカンはにやりと口角を上げ、また切りかかる。
クラウドも防戦だけでなく反撃に出る。
お互いの手加減もなくなり少しでも気を抜けばそれこそ大怪我をしてしまうだろう。
その中でも二人の表情は明るい。



「眷属器を使ってないとはいえ、あの剣術バカと渡り合えるなんて…。」
「でもどちらも本気は出してないみたいですね。」
「そうっすね。」
「…二人が全力だったら王宮が無事ではすまないだろう。」



手合わせというには高度すぎるその攻防を見てはヤムライハ、ジャーファル、マスルール、シンドバッドの順に思い思いの事を話す。
シャルルカンは眷属器を使っていない、クラウドもまたシヴァを呼んでいない。
お互いが全力ではない。
シンドバッドとてクラウドの全力を見たわけではないのではっきりとはわからない、けれどすべてを出してはいないのはわかった。



「あーもう終わり!クラウドの攻撃重すぎ!」
「ああ。わかった。」



先に根をあげたのはシャルルカンだった。
片手とはいえ普通よりは重い攻撃を何度も受けるうちに手が痺れだした。
受け流すことも試みたがそこは教育を受けたクラウドの攻撃、簡単には受け流せなかった。



「つっかれた。」



シャルルカンはばったりと地面に倒れて大の字になる。



「はぁ…体力、落ちてる。」
「今でもだいぶ凄いけどな…。」



クラウドが自分の手を見つめつぶやくと聞こえていたのかシンドバッドが苦笑する。
今見た限りでも普通よりは格別に強いだろう。
しかし、二年前とくらべクラウドの体力は落ちていた。
セフィロスがいつ現れるかわからない今、このままではいけないだろう。
クラウドが鍛錬のことを考えていればその考えを読んだようにシンドバッドが言った。



「なぁ、クラウド鍛錬とか考えているなら食客として王宮に残らないか?」



衣食住の提供の変わりにシンドリア国に労力を提供するという食客。



「クラウドは住む所の心配はなくなるし、こっちとしてもクラウドとの鍛錬で力がつくだろうし。」



お互いにメリットがある。悪くない提案だろう?とシンドバッドは笑いかける。

クラウドを狙って来るであろうセフィロス。
クラウドの存在がアル・サーメンに知られれば間違いなくアル・サーメンは手に入れようとするだろう。
そしてなにより、クラウドを独りにしたくない。



「どうだ?」
「…じゃあ、頼む。」



少し考えた後クラウドは頭を下げた。



「本当か!?としジャーファル今すぐ準備だ。」
「はい、わかりました。」
「よっしゃー!リベンジだ、クラウド!」
「リベンジって先輩ヘロヘロっすよ?」
「そうよ、クラウドのことも考えてあげなさいよ。」
「また後日でいいか?」
「ちぇ、しゃーねえな。」
「よし!今日は酒盛りだ!」
「シンさん、その前に仕事です。」





やっと主人公が食客になれました。
次は謝肉祭、かな。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ