第一部

□27
1ページ/1ページ




――俺たち、友達だろ?



懐かしい夢を見ていた。
クラウドは目覚めて間もない、ぼんやりとした頭でそう思った。
ジュダルと別れた後、一人自分に与えられた部屋に戻ったクラウドはベッドに横になった。休憩のつもりが思った以上に疲れていたのかそのまま寝てしまっていたようだ。



「ザックス…。」



思わず口を出た名前は誰にも聞かれず部屋に溶けていった…と、思っていた。



「…恋人の名か?」
「っ!?な…!?」



思いもしなかった声にクラウドは飛び起きた。
部屋の扉のほうを向けばそこにシンドバッドが立っていた。
まったく気配に気づかなかった。
そういえばセフィロスの接近にも気づけなかったな、と思い出していらだちを表すかのようにクラウドは自身の髪を掻いた。



「シンドバッド…いつからいた?」
「クラウドが目を覚ます少し前だな、よく寝ていたから待とうかと思っていたところだ。
今、いいか?」
「…ああ。」



ベッドに腰掛けたままのクラウドの隣にシンドバッドが座る。
シンドバッドは話の切り出しに迷っているのか。そのまま何を話すことなく時間が過ぎる。



「あー…その、なんだ。」



長い沈黙にしびれを切らしたクラウドが口を開こうかと思ったとき、シンドバッドが声を出した。
いつもの自信に満ちた表情ではなく、うろうろと視線を泳がして話す。



「今日は、すまなかった。
友達じゃないと思っていたわけじゃないんだ、あれはジュダルをひかせるための口実というか、いや食客なのも事実なのだが…それだけじゃないというか。
傷つけるつもりはなかったんだ。だが…本当に、すまなかった。」
「いや…オレの方こそ、子供みたいなことで拗ねてすまなかった。」
「いやいや、オレがはっきり言わないのが…。」
「いやいやいや、オレが。」
「いやいやいやいや…。」



「クラウドー飯食いに…ってなにやってんだ?」



ベッドの上でいい年をした男二人がいやいやオレが、と謝り合う異様な光景はクラウドを夕飯に誘いに来たシャルルカンが声をかけるまで続けられた。



+++



「そういえばクラウド、ザックスというのは恋人の名か?」
「ぶっ!」



あの後、クラウドとシンドバッドそして誘いに来たシャルルカンたちは食堂に行き夕飯を食べていた。
食事中、剣術の話やシンドバッドの冒険譚など他愛もない話をしていた。
クラウドも相槌を打ちながら聞いていたがシンドバッドの思い出したかのような質問に飲んでいたお茶を吹きだした。



「おいクラウドだいじょう…。」
「え?何々クラウドってば恋人いるのー?教えて教えて!!」
「うおっ、ピスティどっからわいた!?」
「ふふん。恋愛話あるところにピスティちゃんあり、よ!」
「いやかっこよくねぇよ。ただの出刃亀じゃねぇか。」



いまだにむせているクラウドの背をシャルルカンが撫でているとどこから聞きつけたのかピスティがやってきた。



「いいでしょ!クラウドの恋人ってかわいい系?それとも美人系?」
「いやあ、もしかしたら年上のお姉さまかもしれんぞ?」
「あーなんか年上受けしそうですもんね。」
「お姉さま方からいたずらされるタイプだな。」
「ヤーン王様、発想がいやらしい!!」

「ザックスは男だ!!」



思い思いに好きなこと言う面々にやっと落ち着いたクラウドは訂正した。
その声が思いのほか大きな声だったのか三人は驚いたように口を閉じた。
そしてぽつりとシャルルカンが呟く。



「え…クラウドの恋人っておと…。」
「それ以上言うつもりなら切り落とすぞ。」
「どこを!?」



すべて言い切る前にクラウドに睨まれ口を閉じた。
静かになったところでクラウドはため息をついて言った。



「ザックスはオレの上司で、仲間で…トモダチだった奴の名前だ。」



だったと過去形で言いながら思い出したのはザックスの最期の姿。
あの大雨の中、ミッドガルが見下ろせる崖の上で血に塗れた姿。




やっと名前が出せたザックス…!!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ