第一部
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騒がしかった夕飯を終え、それぞれ…シンドバッドはジャーファルに捕まって連行されていたが…自室に戻っていった。
夕方に一眠りしたせいかクラウドの目は覚めていて、眠る気になれず部屋を出た。
外は土砂降りの雨だった。
散歩でもしようと思っていた出鼻をくじかれるが戻ることなくそのまま森の方へと足を進めた。
雨が髪を濡らし、頬を伝い落ちる。
それが気にならないほどにクラウドの頭を占めているのはザックスのこと。
「トモダチだった…か。」
シンドバッドたちにそう言ったことに少なからずクラウドは驚いていた。
少し前のクラウドならば、トモダチだと言い切っただろう。
「思い出として受け入れられたってことか?」
ザックスが死んで、受け入れられず一度はすべてをなかったことにした。
思い出したとき、ザックスは死んだとわかっていたがいつもどこかに彼の面影を追っていた。
どうやっても過去にはできなかった。
人体実験を受けて自分で動くことすらできなかったクラウドを連れて逃げ、結果クラウドを守って追っ手に殺されたザックスを。
その死の間際まで、生きろと言ってくれた彼を。
――俺の分まで、お前が生きる。お前が俺の生きた証。
俺の誇りや夢、全部やる。
彼の言葉はよくも悪くもクラウドを縛った。
「オレが今、生きているのはザックスのため…だった。」
死んでしまいたい、と望んだ時があった。
支えてくれたのは仲間たちだったが、引き留めたのはザックスとの最後の約束。
ザックスの分を生きる、そのためにクラウドは死ねなかった。
クラウドが今生きているのはザックスが命を懸けて守ってくれたから。
だからザックスの分を代わりに自分が生きる。
この命はザックスのものだから。
クラウドにとってザックスは今だった。
「でも、そうじゃなかったんだな。」
ザックスは俺の分を生きろとは言わなかった。
「ザックスがくれたのは誇りや夢、剣だけじゃない。
自分の未来さえもくれた。」
ザックスの代わりに生きるのではなく、ザックスが生きるはずだった時間をクラウドが生きること。
そんな簡単なことにも気付けなかった。
「オレはザックスからもらった時間でオレの人生を生きるよ。
ザックスのためじゃなくオレのために。」
忘れるわけじゃない、思い出としてずっと覚えておくから。
今度は前を向くだけじゃなく、歩き出すよ。
一歩ずつ前に進むことでザックスとは離れてしまうだろうけど、時々振り返るから。
「もう、大丈夫。」
ありがとうザックス。
「オレはあんたを…愛していたよ。」
ずっと胸に秘めていた想い。
ザックスが友達だと笑いかけるから。
彼に恋人がいたことを知っていたから。
その恋人が目の前で星に還った彼女だと知ってしまったから。
ライフストリームから見守ってくれる二人の前では絶対に口に出せなかった。
ここなら、この“セカイ”なら言ってしまっても大丈夫だろう。
届かなくてもいい。
聞こえなくてもいい。
それでも一度も口にせずにこの思いを消してしまいたくなかった。
好きだった。
愛していた。
ずっと守ってくれてありがとう。
大切なものをくれてありがとう。
本当に、大好きでした。
誰もいない森の中。
涙は雨に紛れ、嗚咽は雨音の中に消えた。
ザックスを目の前で看取って以来、約2年ぶりにクラウドは泣いていた。
そのことを知るものは誰もいない。
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