企画
□1と5
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「渚くん」
そう、自分の名前を呼ばれて振り向いた数秒後に、飲んでいたコーヒーを口から吹き出した。
なぜなら僕の名前を呼んだのが、ファースト、つまりは綾波レイだったから。
「ファースト!?なんで、名前…」
「ファーストじゃなくて、綾波レイ」
「あ、ああ…綾波レイね。綾波さん、なんで急に、名前になったんだい。僕のことも、君自身も。」
彼女は僕がネルフで使徒と戦っていたころから、僕の存在を理解していた。
僕と彼女は他のチルドレンとは少し変わっていたし、名前でなんて、お互い一度も呼ばれたことも呼んだことも無かったのに。
「碇くんが言っていたの。名前って、特別なものだから。呼びあうと、自分も相手も温かくなるって、だから。」
少し驚いた。
僕が渚カヲルに変わっていくように、ファーストも、綾波レイに、変わっていくんだ。
特別ではない、当たり前に変わるということが、なんとなく嬉しかった。
「いいね。僕もこれから、君のことを綾波さんって呼ぶよ。」
そう言ったらなんだか、本当に前よりも親しくなったような気がして、"綾波さん"も僕も、つい微笑んだ。
「…渚くんは、変わったと思う。」
「?」
「いおりさんと過ごすようになって、雰囲気が柔らかくなったっていうか、優しくなった気がする。」
言われてみて、ああ、そうかもしれないと思った。
いおりと出会ってから、僕は変わったと思う。
優しくなったと思われるならば、それはとても嬉しいことだ。
「それは綾波さんもだよ。僕らは出会いに、感謝しなければならないねぇ。」
そう言って笑うと、綾波さんもそうね、と心なしか表情が柔らかくなった。
「渚くん、いおりちゃんと居るときが、一番幸せそうね。」
「君こそシンジくんと話すときが一番穏やかな顔をしているよ。」
「私、大切なものが見つかって、自分を変化させられる人に出会えて、良かったと思う。」
「ああ。本当に。」
ゆるりと流れていく時間。
変化。
新しいこと。
そして、名前。
日常も、人も、変わらないようでいて、変わっていくものだ。
そうして大切な人と幸せに毎日を、歩んでいけたらいいな、と、ふと考えた。
きっと"綾波さん"も、同じことを考えていたのだろう。
扉の向こうから聞こえてくる騒がしい聞きなれた声に、二人でまた笑い合った。