長編
□02新しくなる
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お花見をしたいね、なんて二人で浮かれていた昨日が嘘のよう。
今日は先日行われた学年末テストの返却日だったわけで。
二人分の厚さのある茶封筒を胸に、カヲルくんの病室へと足を急ぐ。
カヲルくんは病室から出られないため、普段から通信教育を受けているが、テストは毎回紙で行うので、学校で採点された彼の分のテストも私が持ち帰ることになっているのだ。
中身はまだ見ていないが、先生に渡されるとき「渚にはよく勉強したなと伝えておいてくれ。」と言われたので、カヲルくんはきっとよい結果だったのだろう。
対して私は「ほんと文系だよな」などと笑われたので、数学科学が危機的かもしれない。
どうしよう追試だったら…なんて不安をこぼしているうちにもう病室前。
軽くノックして扉をあける。
おかえり、と微笑むカヲルくんをよそに病室に入って早々ため息をこぼした私。
カヲルくんは私が胸に抱える茶封筒を見て察したようだった。
「テスト、返ってきたんだね。どうだった?」
「まだ見てない…」
「じゃあ、いつもみたいにせーので1教科ずつ行く?」
「うん…そーする…」
「じゃ僕の分、ちょうだい。赤点が無いことを祈ろうか」
「そんなこと言ってカヲルくんは頭いいんだから…先生が誉めてたよ、よく勉強したって言っといてって言われたもん」
「敢闘賞の意味かもしれないじゃないか。まぁ、見てからでなければ結果なんて分からないよ。」
そういって手際よく自分の答案を教科ごとに分ける。
私も慌てて答案を整理した。
こうして、せーの!で見せあった結果…
カヲル(国54数95英90社87科94)
私(国88数37英80社75科68)
「な、なにこの差!カヲルくんやっぱり頭いいじゃないかーっ」
半泣きになりつつ抗議するとクスッとカヲルくんが笑った。
「そんなことないさ。国語は、いつも点が取れないしね。いおりにいつも勝てない。」
「国語だけだよ…私の数学見た…?ギリギリだよほんと」
「追試かい?」
「一点セーフで逃れた!」
「なら、大丈夫。三年生になれるよ。」
「そーかな。まあ数学以外は良かったから大丈夫だと信じたい」
多分大丈夫であろうと真剣な顔で念を押すと、カヲルくんがあっはっはと大笑いするものだから、少し恥ずかしかった。
まあ彼が笑ってくれるなら、こんなのも悪くないか。
他愛もない、高校生の会話。
けれどそんな他愛もない会話が楽しくて、途切れることなく続いていく。
追試も逃れ、あとは桜が咲くのを待つばかり。