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□ぽかぽか系男子
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ものすごい雨。
外部活の私は軽いミーティングを済ませ、つい30分ほど前に部活を終えていたのだが。
帰りが自転車から徒歩になったのはともかく、生憎傘を持ち合わせていない。
こういうとき頼りになる彼氏は部活で一緒に帰れないし、どうしたらいいものか。
そう途方に暮れては、止む気配のない雨をじっと見ていた。
時折、体育館からバスケ部のボールをつく音やバッシュの擦れ会う音がする。
小堀さんはまだ、部活を頑張っているのだろうなぁ、と頭の隅で考えつつ、時間がたつにつれ激しさを増す雨に溜め息をひとつ吐いた。
「いつになったら帰れるんだろ…」
「溜め息ついてどーしたんスか?」
「え、」
声がして振り返れば、見覚えのある金髪。
そこには練習着姿の黄瀬くんが立っていて、今日はムシムシするッスねぇ、なんて言ってタオルで額を拭っていた。
「黄瀬くん、どしたの?練習、まだやってるよね?」
「ああ、俺買い出し頼まれたんスよ。まあいわゆるパシりッスけどね。そのついでにお使いも頼まれまして、」
ズラーっとジュースの名前が書き込まれたメモをヒラヒラと振りながら笑った。
確かにこの雨に高い湿度、加えてバスケの激しい動きは、そうとうキツいだろう。
あ、そういえば、買い出しの他にお使いを頼まれたとか言っていたっけ。
「お使いってなに?」
私が尋ねると、にんまりした顔で黄瀬くんが後ろに持っていた一本の傘を私に差し出した。
「小堀センパイからッスよ。傘と、あとこれ。」
そう言って黄瀬くんが差し出したのは小さな紙袋。
「ありがとう。小堀さんにも御礼を言っていたって伝えてくれるかな。それとこれは…」
紙袋の中身を聞こうとしたのだが、黄瀬くんは急ぎ足でじゃあ俺遅いとセンパイにシバかれちゃうんで、と行ってしまった。
「なんだろ…」
受け取った小さな紙袋を開けると、中には長靴やお花、カエルの顔のかたちをした可愛らしいクッキーが入っていた。
紙袋の外をよく見てみると、小堀さんの字で
"一緒に帰れなくてごめん、気をつけて帰ってな。良かったらどうぞ"
と書かれていた。
私のために、わざわざ気を使ってくれること。
傘も、クッキーも。
手書きのメッセージも全て、嬉しい。
小堀さんの気遣いは、私の心をいつもぽかぽか、暖かくしてくれる。
先ほどまでの憂鬱感は嘘のように、幸せな気持ちで満ちていく。
小堀さんは、いつもこうやって私にたくさんの幸せをくれる。
そんなところがたまらなく好きで仕方ないのだ。
小堀さんの傘をさし、クッキーをひとつ、口に入れ昇降口を出る。
軽快な足取りで、鼻唄を口ずさみながら。