Short

□笑顔の裏側
1ページ/1ページ

高尾和成。


私の見る彼は、常に笑っていて、みんなの輪の中心に居る。


頼みごとをされることや、相談をされることも多い気がする。


彼女である私にも、一度も泣き顔を見せたことがないほどに、よく笑う。



そんな彼は周りからの信頼もあつく、誰からも愛される人気者。


私も彼の笑顔に、勇気付けられたり元気を貰ったことは数えきれない。



けれど今、目の前に居る高尾和成は。


涙を必死に堪えたような、苦しそうな、歪んだ笑顔を浮かべていて。




「ごめんな、急にこんな、俺、いおりの前ではかっこよくいたかったんだけど…」



そう言って私にもたれかかる高尾和成は。


いつもの笑顔と正反対の、不器用な圧し殺したような泣き顔。


私はそんな高尾を、壊れ物を扱うようにそっと抱き締める。


「高尾、私の前だからこそ、ううん。私の前くらい、本当の高尾でいいんだよ。」


小刻みに震える肩。

ぎゅっと高尾が私を抱き締め返す。


顔は見えない。

けれどきっと、彼はたくさん泣いているのだろう。


普段どんなに辛いことがあっても、嫌なことがあっても、常に笑顔を絶やさない。


まわりのことばかり考えて、自分を後回しにする。



それはどんなに辛いことだろう。

高尾和成という人は、どこまでも優しすぎるから、きっと今までもたくさんの我慢をしてきたのだろう。


だからせめて私の前では、本当の高尾でいてほしい。


私が、彼を支えたいと思うから。



「いおり」

「うん?」


「ありがとな」


また高尾が私を強く抱き締める。

はじめてみる、本当の彼。



大好きなあなたの笑顔の裏側。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ