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□笑顔の裏側
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高尾和成。
私の見る彼は、常に笑っていて、みんなの輪の中心に居る。
頼みごとをされることや、相談をされることも多い気がする。
彼女である私にも、一度も泣き顔を見せたことがないほどに、よく笑う。
そんな彼は周りからの信頼もあつく、誰からも愛される人気者。
私も彼の笑顔に、勇気付けられたり元気を貰ったことは数えきれない。
けれど今、目の前に居る高尾和成は。
涙を必死に堪えたような、苦しそうな、歪んだ笑顔を浮かべていて。
「ごめんな、急にこんな、俺、いおりの前ではかっこよくいたかったんだけど…」
そう言って私にもたれかかる高尾和成は。
いつもの笑顔と正反対の、不器用な圧し殺したような泣き顔。
私はそんな高尾を、壊れ物を扱うようにそっと抱き締める。
「高尾、私の前だからこそ、ううん。私の前くらい、本当の高尾でいいんだよ。」
小刻みに震える肩。
ぎゅっと高尾が私を抱き締め返す。
顔は見えない。
けれどきっと、彼はたくさん泣いているのだろう。
普段どんなに辛いことがあっても、嫌なことがあっても、常に笑顔を絶やさない。
まわりのことばかり考えて、自分を後回しにする。
それはどんなに辛いことだろう。
高尾和成という人は、どこまでも優しすぎるから、きっと今までもたくさんの我慢をしてきたのだろう。
だからせめて私の前では、本当の高尾でいてほしい。
私が、彼を支えたいと思うから。
「いおり」
「うん?」
「ありがとな」
また高尾が私を強く抱き締める。
はじめてみる、本当の彼。
大好きなあなたの笑顔の裏側。