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□恋ほど淡いモノもなし
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私が好きだと言ったら、あなたはどんな顔をするのだろう。
そんな妄想は、幾度となく私の頭を駆け巡った。
ある日は幸せな結末を、ある日は涙まみれの未来を。
それでも本当に言える勇気がないまま、2年が過ぎてしまった。
高校生最後の年。
私の重たい重たい想いが通じたのか、三年間、あなたとクラスが離れることはなく、無事三年目を迎えて早一月。
友達に言われて、今日が恋の日なのだと知った。
この、なんの根拠もない語呂合わせの平日を、神様がくれた最後のチャンスなんだと思い込んだ。
「ねぇ高尾。」
「んー?」
前の席に座る、細身なのに、筋肉質な背中をつつく。
秀徳高校バスケットボール部レギュラー、高尾和成。
私の高校生活の、この重たい想いの全て。
「高尾こっち向いて、」
「なに、どったのいおり」
更に背中をつつくと、人懐っこい顔が振り返った。
三年間もクラスが同じともなれば、友達と言える程親しくもなる。
「高尾さ、今日がなんの日か知ってる?」
「5月1日…?なんかあったっけ、わかんね。」
「今日さ、恋の日だって。0501で、恋の日。」
「…へぇ、知らなかった。すげー語呂合わせだな!」
一瞬、困ったような顔をした。
すぐさまいつもの笑顔に戻ったけど、私はなんとなく、高尾がわたしの言いたいことを察したように感じた。
それでももう、これを逃したら駄目な気がして。
そのまま言葉を繋ぐ。
「だから言うとね、私、高尾のこと、好きなんだ。」
「うん…わりぃ、知ってた。」
ほら、やっぱり困ったような顔してる。
気づいてたんだね。なんとなく、そんな気がしてたけど。
「返事は、貰える?」
「…ごめん。いおりとは、付き合えねぇ…。」
「うん…どうして、駄目なのかとか、聞けたりする、かな」
泣くな。
泣いたら駄目だ。
もし私が泣いたら、きっと優しい言葉を掛けてくれるから。
またもっと、失恋したって、諦めたくなくなっちゃうから。
ぐっと唇を噛み、強気な表情をする。
高尾はそんな私の頭をポンポンと撫でた。
「お前がわりぃとか、駄目とかじゃねぇんだよ。ただ今は、いおりのこと、友達以上に思えないんだ。」
高尾は、優しい。
私が傷つかないように、言葉を選んでくれてる。
でもね、その優しさ、痛いよ。
「今、は?…じゃあ、私に少しでも可能性は、ある?」
こんなことは、聞いたって高尾を困らせるだけだと分かっている。
それでも私は重いから、これが最後なんだと、もがく。
「…わかんねぇよ」
それは紛れもなく、彼の本音のようだった。
苦い表情のまま、俯いて辛そうに呟いた。
「私、重たいから、高尾のこと、きっとまだずっと、好きだと思う。諦めないと思う。」
っ、と抑えるような声が聞こえた。
俯いていた高尾が、私の顔を真っ直ぐに見ていた。
「だからね、今日の言葉だけは、忘れないで。私はずっと、変わらないから。」
そう言って微笑むと、高尾も苦笑して、小さくおう、と言った。
じゃあ私、部活行くね、と手を振って教室を出る。
途端に溢れてきた涙が、私の制服のえりに染みを作った。
どうかこの泣き顔を高尾が見ていませんように。
振り返らずに、走り出した。
分かんないって、そんなの諦められないじゃんか。
------------sideby高尾
あいつの背中を、無意識に目で追いかけていた。
わかんねぇなんて、俺は最低だと思う。
本当はさ。
「好きになっちまってんだけど。」
なんて言えない。
だって俺はまだ、全てにベストを尽くせる程、大人じゃないから。
だから。
「夏が過ぎたなら、次は俺から言わせて。」
それまでどうか、あいつが、なんて。