Short
□嘘と本当。
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「いおりっち、好きッスよ」
なんて、言った黄瀬は笑顔だったっけ。
私は黄瀬の彼女でもない。
でも、友達でもないかもしれない。
自分の立ち位置はすごく曖昧で、もろい、すぐ壊れてしまうような場所。
今日も黄瀬は、ファンの子に囲まれては淡々と愛想笑いを振り撒いている。
私と黄瀬は、高校に入って同じクラスになった。
席が隣だということと、私がバスケ部のマネージャーであることが、彼と私を繋いでいる関係の全て。
それだけで全てだった。
なのについ昨日、部活の終わりにふと黄瀬が、私のことを「好き」だと言ったから、それが全てじゃなくなった。
訳が分からなくなって、うつむいた私に、彼は次に続く言葉も無しに部室を出てしまったから、無論返事も返していないし、今日はいつになく大勢のファンの子に囲まれていて、朝から挨拶すら交わしていない。
ぐるぐると昨日の黄瀬の言葉だけが頭を巡っては、溜め息をつく。
正直、自分のなかでの結論は決まりきっているのに。
それを伝える勇気が出ないのは、彼が本気か分からないから。
私は黄瀬のことが好き。
ずっと同じバスケ部の仲間として隣で見てきて、クラスでも他愛のない会話を交わしたりして。
気づけば彼のことを大好きになっていた。
だから好きだと言われたとき、心から嬉しかったのに。
すぐに頷いておけば良かったのに。
あれ以来彼は私と言葉を交わしていない。
好きの続きも、聞いていない。
ふと、彼を取り巻く女の子達の間から黄瀬と目が合う。
私は目をそらせない。
黄瀬もなにも言わない。
じっと、見つめ合うだけ。
「ねぇ黄瀬くん聞いてる〜?」
「ん?あぁ聞いてるッスよー」
「嘘だー(笑)」
女の子に話しかけられ、フィっと黄瀬が目をそらす。
また、愛想笑いを浮かべて。
ねぇ昨日、私に好きって言ったときと今笑ってる顔、違わない?
それって期待してもいいってこと?
分からない。
じゃあどうして、昨日の続きを話してくれないのだろう。
どうして朝から、私を避けているのだろう。
どれが本当?
どれが嘘?
昨日の君と、今日の君。
私はどっちの君を信じたらいい?