企画

□朝顔
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「ねぇいおり、これは何?」

そう言ってカヲル君が私の抱えているものを指さした。

大きなプラスチック状の入れ物と、長い棒が四本、加えてビニールに入った土と小さな種。

言わば栽培セットというもの。


いくらこの世界が真っ赤に染まっていたからと言って、栽培セットが無かったわけではなかったのだが、正直そんなものに触れている時間や機会も無かった。


ましてカヲル君はこんな子供の自由研究のようなものでさえ、知らないのではないか?

そう思った私が、近くのショッピングセンターの園芸コーナーで購入してきたのだ。


「朝顔っていう花を育てる栽培セットだよ。小学生とかが、自由研究や授業の一環で育てるものなんだって。」


ほら、ちっちゃいジョウロまでついてるんだよ、と笑いながらカヲル君に栽培セットを渡す。

まじまじと栽培セットを見つめるカヲル君はいつもの大人びた雰囲気はどこへやら、小学生そのものだった。


「ここで育てるのかい?」


目をキラキラ輝かせて私に問いかけてくるものだから、思わずくすっと笑ってしまう。



「うん、窓際のスペースで!…ほら、私たちってこんな当たり前みたいなこともしたことなかったから、そういう事とか全部、カヲル君と見たり、聞いたり、色々してみたいなって。」


なんなら観察日記もつけよっか、と言うとそれも悪くないね、とカヲル君は笑った。

子供、に戻ったように。



「じゃあ僕は毎日、この花の世話をするんだよね。なんだか退屈しなそうで、楽しみだよ。」


「学校が終わったら私も手伝うね。じゃあほら、このネームプレートに名前も書いとこう」


「それじゃほんとに小学生だよいおり」


笑うカヲルくんをよそに、自分の名前と彼の名前を書き込んだ。


これであとは、土を入れて種を蒔くだけ、と。


「なんか、楽しいね。」


私がそう言うとカヲル君も頷いた。

やっている事は本当に小学生そのものなのだけど、なんだか無性に楽しくて、多分それはカヲル君と一緒だから尚更なのであって。



真っ赤だった世界の記憶は消えないけれど、生まれ変わろうとするこの世界でカヲル君と二人、たくさんのことを体験したい。そう思った。


「いつか結婚したら、庭は花でいっぱいにしたいね。」


「えっちょ、カヲル君結婚とか気が早いよっ」


「そうかな?」

「うう、うんっ」


急にカヲル君がそんなことを言うものだから、つい動揺してしまう。


でも同時に嬉しくて、にやけそうな顔を必死におさえながら、幸せを噛み締めた。






(樹さまへ、カヲル夢ほのぼのです。相互ありがとうございました(*´▽`*))

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