企画
□君の生まれた日
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それはなんの変哲もない、いつもどおりの朝。
いつものように目覚まし時計に手をかけ、すぐ横にある愛しい彼の寝顔に小さなキスを落とす。
寝起きの悪い彼は、寝息をたてたまま起きる様子はなかった。
壁にかけられたカレンダーの、大きな赤い丸を見る。
日付は今日。九月十三日。
ベッドの下を覗き込むと綺麗な包装紙に包まれたプレゼントがひとつ。
冷蔵庫をあければ、昨日の深夜にこっそりベッドを抜け出して作ったバースデーケーキもある。
ー九月十三日、今日は、ほかでもないカヲル君の生まれた日。
バレないようにと一週間も前からコソコソと行動していたけれど、勘のいい彼なら気づいていたかもしれないなぁ、とふと考える。
いまだ起きる様子のない彼の規則正しい寝息を聞きつつ、着替えを済ませてリビングへと足を運ぼうベッドを降りようとした瞬間、私は布団の中へと引きずり込まれた。
「いおり、僕を置いてどこかに行くなんて酷いな。」
寝起き特有の鼻声で囁かれたかと思えばぎゅっと抱きしめられる。
しまった、寝たふりだったか、と思いつつも、彼の温もりにまた目がとろんとしてしまう。
が、今日だけはここで流されるわけにはいかないのだ。
「カヲル君、起きて。今日は大事な日なんだよ」
抱きしめられたまま、カヲル君のほうへと向き直る。
カヲル君はといえば、はて、と本気でわからないと言った表情で頭にはてなを浮かべていた。
「今日は、カヲル君の誕生日だから。」
私がそういうと、カヲル君は思い出したとでもいうかのようにああ、と声を漏らした。
「いおりがずっとなにかコソコソとしているのは知っていたんだけど、まさか僕の誕生日だったとはね。ああ、カレンダーの丸はそういうことだったのか。」
まさかとは思うけど浮気されているのかとヒヤヒヤしていたよ、と笑ったカヲル君にそんなことあるわけ無いでしょ、と笑うと小さなキスをされた。
「ケーキもプレゼントも用意してあるんだよ。今日はカヲル君の日だから、なんでもわがまま言ってね?」
「じゃあ、もう少しこのままがいい。」
ぎゅーっと抱きしめる力が強くなった。
苦しいよ、と笑うと彼はまた嬉しそうに微笑んだ。
「カヲル君、生まれてきてくれてありがとう。大好きだよ。」
「ありがとう。僕もだよ。君に祝ってもらえるのなら、もう来年の誕生日が待ち遠しいくらいさ。」
そういってまた、今度はさっきよりも少し長いキスが降ってきた。
彼の誕生日に、なにより彼と居られることに感謝している。
平凡な今日に、幸せな今に感謝している。
今日彼の誕生日を祝えたことに、感謝する。
心からの思いを込めて。
「誕生日、おめでとう。」