長編

□12新緑
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五月ももう終頃。

遺伝子提供者の出現から早くも一ヶ月が過ぎようとしている。


あんなことがあったものの、カヲル君と私は特になんの変化もない平穏な日々を送っていた。



「もう五月も終わりか、季節があると時の流れをこんなにも早く感じるものなんだね。」


窓際に揺れる新緑の木を見ながら、カヲル君が言った。


「夏、僕たちが一番よく知っている季節が来るね。」


「そうだねぇ…それもまた、今までとは違って感じられるかもね。」



数年前のこの世界は、常夏状態、季節もなにも無かった。

だから季節ごとに色を変えていく世界を、とても愛しく感じるのだ。


春桜を見、新緑の木々に夏を感じ、秋冬と次々に巡る季節を待ちわびる。


そんなあたりまえのような常識も、私たちにとって特別なものであり、他ならぬカヲル君と共にそんな四季を巡ることができる。

それこそが私は幸せで仕方ないから、ふとした瞬間に頬が緩んでしまうのだ。



「いおり、にやけてるけど」


「へ、いやいやっ、なんでもないよっ!」


「ふふ、変なの。ほら、こっちにおいでよ」


椅子に座っていた私の手を引いて、カヲル君が私をぎゅっと抱きしめた。

ベッドというより、カヲル君の膝に座るような体勢になる。


(これはなかなか、見られたら恥ずかしいかも…。)



「明日また、今月分の検査結果が出るんだ。」


私を抱きしめたままカヲル君が呟く。



「変化が起こるのは怖いことだけど、いい結果が出たらいいなって、そう思ってる。」


「うん、私も。」



ありがとう、と、私のおでこに短いキスを落とす。


本当に心から願ってるよ、と言うと、今度は唇に小さなキスをして、


「うん、僕もさ。」

と微笑んだ。



初めての新緑、五月の終わり。

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