長編
□プロローグ
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「君も、悩んでくれているのかい」
ぽつりとカヲルくんが呟いた。
どこか遠くを見つめるように、悲しげな表情で。
「僕は始め、自分は死ぬべきだと思っていた。」
死、という単語に敏感に反応してしまう。
不安を呑み込んで彼の次の言葉を待つ。
「でも、ずっと考えていたらね、死にたくなくなった。…生きる術があるのなら、生きたいと、思ってしまったんだ。なぜか、わかるかい?」
そういってカヲルくんがこちらを見た。
微笑んでいるものの、目は一直線に私を見つめていた。
「どうして…?」
それはね、とカヲルくんが笑った。
繊細に、まるで壊れ物を扱うように私の髪をなでる。
「君だよ。僕は、いおりと、もっと生きていたい。君のことが、好きだから、別れるのが、辛い。別れたくないんだ。ずっと一緒に居たいと思う。」
瞬間、涙が頬を伝っているのを感じた。
カヲルくんが、私のことを想って、生きたいと願ってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。
私と同じことを、ずっと一緒に居たいと思ってくれていたことが、嬉しかった。
「カヲルくん、っ…ありがとう…、私も、ずっとずっと、カヲルくんの側に居たい」
「うん。約束しよう。」
そう言ってキスをしたあの日のことを、私は今でも覚えている。
そして、二度と忘れないだろう。