長編
□01お花見にいこうよ
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四季の戻った世界。
三月のはじめ。
庭の桜は今年も二回目の蕾をつけた。
「もう春だね。」
そう呟くと、カヲルくんから思いもよらない返事が返ってきた。
「いおり、今年はお花見をしにいかないかい」
「えっ…?」
「もうすぐ桜という花が咲く頃だろう?」
思わず言葉につまった。
だってカヲルくんはこのベッドから、この部屋からは出られないはず。
嬉しさ反面、驚き反面。
たくさんの?が頭を飛び交う。
「カヲルくんお花見って…」
ふふっ、とカヲルくんがいたずらっぽい顔で笑う。
ますます分からなくなる私をよそに、いつになく上機嫌な彼。
「昨日の検査の結果、まだ言ってなかったよね?」
「そういえば…」
「ほんの少しだけど、病状が回復したみたいなんだ。先月よりも体内に残っている毒素も減ったようだし、変わらないようでいて、僕は回復に向かっているみたいだよ」
「嘘…ほんとに!?」
「僕は君に嘘をつかない」
信じられない。
いや、信じていたけれどまさか。
本当に、また奇跡が起きている。
少し涙が出そうになった。
嬉しくて嬉しくて、自分のこと以上に嬉しくて仕方ない。
「だから、一日一時間だけだけれど、今日から外に出ていいって、言われたんだよってわっ!」
カヲルくんが言い終わるより先に抱きついてしまう。
彼が壊れてしまわないようにそっと、でも強く。
ああこんなにも君は、私を幸せにするのが上手。
「すごい嬉しい…ほんとに嬉しくてしょうがないよ」
「僕もだよ。これでまた、君との未来に近づいたね。」
まぁまだ外に出るのも車椅子なんだけど、とはにかむ。
その照れた顔もすごく愛しい。
「さ、お花見の計画、立てようよ」
「うん!」
はしゃぐ私の頭を優しくカヲルくんが撫でる。
春が待ち遠しい。