長編
□07お花見・前
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「うん、いい天気だ!」
雲ひとつないまっさらな空。
朝五時、目覚ましより早く目覚めて、気合いを込めて作ったお弁当を鞄に詰める。
洋服を選ぶのに少し時間がかかったけれど、早起きの甲斐あってか、時刻は8時。
カヲルくんを迎えにいく時間は9時半だから、まだ余裕がある。
「この格好変じゃないよね…」
随分とお出掛けすることも無かったので、私服に袖を通すのはすごく久々な気がした。
白い、裾に花の刺繍をあしらったマキシ丈のワンピースに、先日アスカがこれいおりに似合いそうだから!と言ってくれたジーンズ生地のジャケットを羽織る。
髪も少しいつもより丁寧にとかしてバレッタをつけた。
可愛いって、いってもらえるといいな、なんて。
妄想に花を咲かせている間に時刻は9時になろうとしていた。
「早く行かなきゃ!ふふ」
スキップをしながら家を出た。
病院までの道のりも、早く早くと、いつもと変わらない道が長く感じてしまった。
「やあ、早かったね。おはよう。」
病院につくなり、カヲルくんが車イスでお出迎えしてくれた。
出迎えてくれたことももちろんだが、カヲルくんが病室を出ているという事実が嬉しくて仕方ない。
そして、
「カヲルくん、服…!かっこいい…」
ありがとう、と微笑むカヲルくんは、いつもの検査服ではなく、私服に身を包んでいた。
黒のジャケットがよく似合う。
「ミサトさんがね、着替え持ってきてくれたんだ。せっかくのデートなんだから、ってね。」
「ほんとすっごくかっこいい!!似合うよ。」
「ありがとう。いおりも、すごく可愛い。」
ぼぼっと頬が赤くなる。
カヲルくんに可愛いって言われると、すごく嬉しい。
ついついにんまりしてしまう。
「ほら、いつまでもにやにやしてないそろそろお花見行こう?」
「っわ、ごめんぼーっとしちゃった!行こ行こ!」
恥ずかしくなって、すぐさま車イスの後ろに回ってハンドルを握る。
「よし、出発!」
そう言ってゆっくりと歩き始める。
春風がふわっと、私とカヲルくんの間を通り抜けていった。
「ねぇカヲルくん、写真たくさん撮ろうね!」
「ああ、いいね。思い出に残る、いい写真が撮れるといいなあ。」
「ふふ、うん!」
カヲルくんと、外を二人で歩いている、歩けている、笑いあえている。
そんなことに幸せを感じながら、目的地までの道をゆっくりゆっくり、歩き始めた。