CP SS

□きっかけ
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僕がライナーと訓練兵になって数日。周りはどうだって良かったから人の名前も覚えずただひたすら訓練に座学に励む毎日を送っていた。それなのにライナーは初めこそ僕と同じく輪から外れてたのに気がつけば周りの人間から頼られ兄の様な存在だとまで言われて満更でもない感じだ。

「ライナー、僕達は」

「あぁ、分かってる」

その言葉で安心したのも一瞬で日が経つにつれ、ライナーが周りに溶け込むにつれ僕は酷く落ち込んだ。いつからだったか癖になったこの膝を抱える体制でいる事が多くなって、人知れず涙を流すなんて事も増えていった。

「ベルトルト、こっちだ」

食堂でライナーに呼ばれ席につけば、小柄でブロンドの可愛らしい女の子が座っている。アニと重なって思わず目を擦ったけどその子は不思議そうに僕を見てニコッと笑った。

「クリスタだ。今度の訓練で同じ班だからな、お前ちっとも名前覚えてないだろ?一応同じ班の人間は覚えておくべきだ」

「よろしくね、ベルトルト!」

まぁライナーの言う事は最もだけど…顔を見る限りそれだけじゃないのは長い間一緒にいる僕には分かるよ。

「それともう1人…あいつどこいったんだ?」

「遅れるって言ってたけど……あ、ユミル!こっち!」

クリスタの視線を追えばスラッと背の高い黒髪で鋭い目つきとソバカスが特徴的な人物が歩いて来る。この2人がいつも一緒に?正反対じゃないか、ライナー、君のその淡い気持ちも消え失せ…

「クリスタ!…ん?なんだコイツら」

目の前で僕達に睨みを聞かせながら吐いた言葉に驚いた。まさか女の子だなんて。良く見れば綺麗な顔立ちだしその、なんていうか…僕達には無いものがある。

「ユミルったらすぐそんな邪見しないの!今度同じ班になるライナーと、ベルトルトだよ」

「ふーん……お?お前あの時の…」

「っ!!ちょっといいかい!?」

ユミルの口の端が上がったのを見逃さなかった僕は慌てて彼女の腕を引き食堂を飛び出した。




「痛っ…離せよ」

「ご、ごめん!つい…」

「なんだぁ?こんな所連れ込んで誘ってんのか?」

ダハハハと下品に笑う彼女を見て思わず溜息をついた。僕は心配し過ぎてるのかもしれない。

「言わねぇよ…誰にだってそんな時もある」

急に真剣な顔で言うユミルの顔に月明かりが差してやけに綺麗に見えた。人を見透かすような瞳で見つめられれば、僕の心の内も、秘密も全て知られそうで怖くてすぐに目をそらす。

「なぁ、教えてくれよ。何で泣いてたんだ?」

「それは…」

どうしてなんて答えられない。それを話すには僕達の事を説明するのは避けられない。

「…まぁ言えねぇならいいよ。私にも秘密はあるんだ、悪かったな」

そう言って去って行くユミルの腕を無意識に掴んでいた。振り返るユミルの驚いた顔に僕も驚いて思わず手で口元を覆った。

「なんだ?まだ何かあんのか?」

「いや、何も…でもどうしてだろう。君といると…」

そう言った後視界がボヤけてポロポロと涙がこぼれた。ユミルの目が今以上に見開いて僕をジッと見つめていたけど、一瞬で僕の頭はユミルの胸に抱えられていた。

「何に悩んでるか知らねぇけどこうしてやる事は出来るから。少しは周りに、私に頼れよベルトルさん」

「……ありがとう、ユミル」

「ほら、腹減ったし戻ろうぜ?じゃないとあの芋女に全部食われちまう」

「芋女?…あぁ」

目を擦ってユミルに手を引かれ食堂に戻る途中、斜め後ろから見たユミルの横顔に光る粒にまた胸が苦しくなった。

(君も何か抱えているの?)

そんな事も聞けずただ黙ってユミルの手のぬくもりを感じながら歩いた。

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