Late confession
□EX:01
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「あ〜あ、荒れてるなぁ。やっぱり」
お墓の前に立って、沖田は困ったように言う。何処から手を付けたものかと考えてるうちに「どうせまた荒れるんだしこのままにしとこ」と諦めるから、ダメだとあわてて注意した。
これは掃除に使うために持って来たんでしょう?屯所を出る際に持たされた、箒を突き出す。
「そんなの建前だけど。大丈夫、掃除しなくて呪われるのは僕だけだから」
「呪われるなんて…」
「十分有り得るよ。ああこわいこわい」
「……」
やる気を起こしてくれる気配は全くない。百合の花束をお墓の傍に置き、包みのヒモを解きはじめる姿にため息が出た。しかし昨日までが雨だっただけに掃除がし難くなってるのはたしかで、まるで諦めるのが分かってたのか沖田はこちらを見てにこりと笑う。
「座ったら?あ、お団子食べる?」
まさかこの人は、ここに来る度にこんなかんじなのか?まあほかの幹部が来ている事は聞いているから、斎藤あたりが手入れしてくれているだろうが。
これじゃ本当に呪おうとしてるんじゃとお墓に眠る彼女の気持ちを考えながら、まわりを囲う木々の葉っぱに守られて乾いている石の上に腰を下ろした。
「…ここ、全く人が来ないわけじゃなさそうですよね?どうして、ここに…」
「全く人が来ない所なんて、世の中にはないに等しいでしょ」
「それは…」
「これが何なのか、誰のお墓かなんて…僕達しかわからない。まあ、運悪く根が腐った奴が来たら…どうされちゃうかは分からないけど」
「……」
貰った団子には口を付けず、手に持ったまま視線は俯く。
「…本当に、ここでよかったんですか」
雨で簡単に荒れてしまい、万が一誰かが荒らしていくかも知れない危うさを持った所なんて。これではまるで、生前の時と同じではないか。
「別に。僕は何処でもよかった」
「何処でもって…」
「遺体は、遺体でしかない。何処に埋めても同じだよ」
さっきから沖田の言葉は、死者に対する、何と言うか…労わり?が欠けている。彼女との仲がよかったとしても、それはあまりになさ過ぎた。何が言いたいのかと言う意を込めて責めるような目を向けるが、しらっとした横顔で無視される。
「……」
…仕方なく、団子を1玉食べた。
久々の陽気にチチチッと鳥がなき、空をとび回る羽の音が聞こえる。お墓を前にもくもくと団子を食べるようすはまわりから見たら不思議な光景だろう、そこでフと不安が過ぎった。
「(…来ない方が、よかったのかな…)」
藤堂達から聞く話に寄ると、沖田は毎回1人でお墓参りに向かうらしい。誘ったのは沖田からとは言え、ながれで付いて来てしまったようなモノだ。1人で来た時はお墓に話しかけたりしているんじゃないだろうか。
「……ねぇ、千鶴ちゃん」
「はい!?」
そんな事を考えてたからか、過剰に反応をしてしまった。しかし気にされず、早々に食べおわった団子の串を供えた団子の横に並べ、ジッとお墓を見詰めるようすに目を奪われてるとおち着…―
「僕さ。奏が大嫌いだったんだ」
「えええええ!?」
…いて来ず、すっとん狂に声を上げた。
まるでイタズラを目論んだ子供のようににっと口角を上げて、オロオロするのを楽しんでいる。楽しくない、本人のお墓の前でなんて事を!今までの関係とか思い出を壊してしまい兼ねない発言じゃないか。
「あ、あの、そう言う事は…!」
「言わない方がイイ?…いいじゃない、"だった"んだからさ」
「それです!それがわる……え?」
ピタリ、その発言の意味を考えて言葉が止まる。沖田はくすりと笑うと、遠くを見るような目をしてすぅと息を吸った。
「奏に初めて会ったのは、僕が近藤さんの指導を本格的に受けはじめたころ―」