Late confession
□EX:01
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「来なくていいのに、なんて…何時の間にか思わなくなってた」
まさか昔話をしてくれるなんてと驚きながら、指先で百合の花びらをくるくる弄っては止め、弄っては止めをくり返す沖田の何とも言えない横顔を見た。
「…思わなくはなったけど。口では毎日言い合ってたから、喧嘩はなくならなかったけどね」
「……」
「近藤さんにメイワクかけて、好き勝手して…本当に大嫌い、だった」
「…沖田さん…」
口調にこそないけれど、語られる話には切なさが在った。こう言う時は何て声を掛けたらいいんだろう?掛けないべき、なのだろうか。考えてもコレと言った答えは一向に出ず、しんと空気が静まり返る。
口を開けては閉じ、開けては閉じをくり返してるうちに「あ〜あ」と沖田の方から声が上がった。
「自分から話しといて悪いけど、止めていい?この話」
て言うか、何で話しちゃったんだろう。そう言いながら頬杖を付く。
「それと。僕、今から暫くだまっちゃうけどいい?」
「……分かりました」
理由は聞かなくても、分かった。ここへ来た時は、きっと何時もそうして過ごして居るんだろう、邪魔をしてはいけない。遅くなる前に声を掛ければ、土方に叱られる事もないはずだ。
「あの、沖田さん」
「何?」
――だが、その前に1つだけ。
「"だった"のなら、今はどう思ってるんですか?」
意地の悪い質問だと言う事は、自分でもよくわかってる。けど聞かずには居られなくて答えを待っていると、一度大きく息を吐いたと思ったら、ははっと小さく、小さく笑い声が零された。
「イジワルだなぁ、千鶴ちゃんは」
髪に隠れて、沖田がどんな表情をしてるのか分からない。想像も付かない。何時ものお返しだ…とするには、あまりにも重たい仕返しだったかも知れなかった。
笑みを止めて、「そうだなぁ」と考える間が空けられる。
何気なく視線を上げると、鳥が飛んでいく振動で脆くなった葉っぱが1枚宙に舞った。それは目の前を通り過ぎて、お墓の前の団子の上にパタリと静かにおちる。
「……話が、したいな」
そうして呟かれた少し的外れな答えは、僅かに掠れていた。
もう、無理だけど。
それから帰りましょうと言うまで、彼が口を開く事はなかった。