Late confession

□EX:01
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「たーのもーう!」


 頼まれたお使いから戻って来たら、知らない女の子が試衛館の門の前で叫んでたんだ。体格に不釣り合いな木刀を抱えて、誰かが出て来るのを1人でワクワクしながら待ってた。


「…ちょっと。誰?君」

「!ここの人…ですか?!」

「そうだけど。何の用」



 声を掛けたら嬉しそうにして、少しだけ離れた所に居た僕の前まで走って来て…慣れてないのが丸分かりな敬語なんか使ってさ、両手で木刀を持ち上げるんだ。


「ここの、こんどーさんって人に、見て貰いたいんです。剣術!」


 近藤さんが出掛けててよかったと思ったよ、こんな子にかまってたら近藤さんの時間が勿体ないから。


「…それじゃ、僕に勝ったら考えてあげる」


 だから追い返して、もう来たくなくなるように全力で叩きのめしてやろうって…僕も木刀を持った。女の子なのに剣術なんて生意気だってかんじもしたし、丁度よかったんだ。


「でも、負けた」

「負けた!?沖田さんが!?」

「そう、僕が」


 すごく悔しかったのを覚えてる。木刀はよく見たらその子用に使い易く作られたものみたいだったけど、実力に負けた事には変わらない。勝ったってカオで胸はられると苛々して、無意識に今度は自分から勝負を挑んでた。


「総司!何をしてる!!」


 丁度その時だったかな。帰って来た近藤さんが僕達を見て、叫びながら一目散にかけ寄って来たのは。


「無闇に女性へ木刀を向けてはいかん」

「……ご免なさい、近藤さん」

「!近藤さん…?」

「君も、木刀は遊び道具じゃない。ケガでもしたら…―」

「剣術見てください!」

「……何?」



 本当の事を言いたかったけど近藤さんは怒ってたからまず謝りたかったのが仇になっちゃって、近藤さんも人が良いから剣術を見てあげる事にしたんだ。そうしたら、女の子なのになかなかの腕を持ってる所が気に入っちゃったみたいで…


「時間がある時は来るといい。君は女の子だ、万が一の事を考えてほかの生徒と共に稽古はさせられないが、見てあげよう」

「はい!有り難う、ございます!」

「…近藤さん…」

「なぁに、いいじゃないか。己の技術を高めるためにわざわざ来てくれたんだ。無視するわけには行かんさ」

「……」



 図々しく近藤さんに頼みに来て、…僕に勝って。見捨てておけばいいのに、構う必要ないのに…って近藤さんの気持ちがわからなかったよ。けど決めてしまったなら僕に口出しする権利はないから、仕方なく目を瞑った。


「それで、君の名は?」

「あ、そうでした。奏です!」



 そして次の日から、女の子―奏にとって試衛館通いのはじまり。

 本当にちょっとの間しか見て貰えなくても喜んで、あきずに来るんだ。待ち時間は素振りしたり好きなように1人で遊んでたり、僕にはすっっごく見苦しかったからよく喧嘩した。そのうち慣れなれしく名前で呼んでくるようにもなってさ、唯一とり柄の敬語も使わなくなって…


「しまいには、けんかは殴り合いにまで発展したよ」

「も、もちろん、拳じゃないですよね」

「拳だけど」

「!!」


 エンリョなんてしない。力の差はあまりまだ出てなかったから、悔しかったけどそれもほとんど互角でね。奏も僕もぼろぼろになるまで喧嘩してたから、近藤さんや土方さんには手を焼かせた。

 でも、ある日…―


「僕の、勝ちだ」

「……」



 初めて会った日以来、2度目の手合わせで僕が勝った。ぎりぎりだったけど勝ちは勝ち、気分がよかった。でも今度は奏が納得しない番になって、それから手合わせを申し込まれる毎日…

 来ては手合わせしよう、帰る時は明日も手合わせしよう。

 でも僕にそれ以降、負けはなかった。奏の癖とかたたかい方とか見抜けて来て、徐々に確実に、圧倒的に、勝てるようになっていった。初対面の時の負けがウソ
みたいだったよ。奏も信じられなかったんだろうね、また手合わせしようって声が日に日に元気を失くしてた。


「おはよう、総司!」


 これだけ負けてるなら普通は来たくなくなるものじゃない?そうじゃなくても、少しは迷うと思う。でも、奏は来るんだ。喧嘩はするし負けるしで最悪な存在だろう僕に向けて、分け隔てなくおはようを言いに来た。


「……おはよう」



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