Late confession

□07
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 何ワケの分からない事を。そう言いたそうにされたが、それはあたしが今の質問をされた時の反応と多分全く同じであり、気持ちが分からなくなかった。

 話しはじめしてしまった手前、引くわけにも行かなくなり…下を向き、先日の、放課後の出来事を話す事にする。


「…沖田君に、聞かれた事なの」

「……あんたは、なんと答えた?」

「答えられなかったよ。何でそんな事を聞くのって、それが気になったから」


 それは本当に唐突過ぎた。前世を信じる?なんて、あまり出て来ない言葉だ。それとも彼の気まぐれが発揮されたのかなと思ったのだが、それにしては目が本気だった。


「僕は信じてるって言うから、余計ワケ分かんなくて。何でって聞き返したら」


 信じるか信じないかで言ったら、信じる方ではある。未知なモノには興味が湧くし。…しかし(あくまで個人の印象だが)「そんなの有るわけないじゃない」とか言いそうな沖田が、信じると言ったのには少しおどろかされた。

 そしたら、何て返って来たとおもう?と先を焦らしたのに対して、斎藤は眉間にシワを刻んだ。


「…君にそっくりな人を、夢でよく見るからって」

「………は?」


 そして、また同じ反応。例の通り、その気持ちはよく分かる。


「勿論、景色は昔のモノだって」

「……それはつまり、夢の中で見る香月そっくりな女は。香月の前世なのだと、言うのか」

「…おそらく」

「……」


 途方もない話である。その女の人が本当に前世かなんて分からないし、その夢が本当に前世の夢かなのかすら分からない。ほかの人の事を話しているのに自分の事だとも言われ、混乱する一方で、斎藤は考えるように視線を落とした。


「…だが。それが本当の話なら、今までの発言に納得が行く」


 そして、あくまで真面目な雰囲気で振り返られる。真面目な雰囲気と言うのはあまり落ち着けず、何処かそわそわしながら首を傾げた。

 ――…が。言ってる事が、全く分かってないわけでもない。


「…約束を果たしてくれるかと、あんたは総司に訊かれたのだったな?」

「…ん」

「だが"あんた達"には、それまで接点はなかった…と言う事は」

「……」

「総司の言う約束は…前世のあんた達が、交わした約束と言う線が考えられる」


 そう。多分、そう言う事になる。沖田の見る夢が本当に前世なら、その夢に出る女の人が"あたし"であるのなら。彼は約束を覚えてるんだから、約束をした相手で有る"あたし"も約束を覚えてくれているものだと思ったのだろう。だから、声をかけられて「誰ですか?」と答えたのにあんな顔をした、のだ。

 走って学校に向かうあたしを見かけて、沖田は"あたし"だと分かった。彼自身も"僕"だと分かってくれると信じていたのかもしれない、が。


「…そんな夢、あたしは見た事ない」


 なのに…否、だからこそ。約束を思い出せと、前世の事を思い出せと言われてるような気がして。嫌に急く気持ちが落ち着かなかった。知らないのなら、自分には関係無い事だと胸を張ればすむのに。それが、出来ない。

 前世が有る事が嫌なんじゃない。嫌な所か、寧ろわくわくする。けれどこれは、わけが違う。わくわくするより「何?」と言う気持ちが先行して、先行し過ぎて上手く考えられなくなって。


「…て言うか、そろそろ歩き出そうか。日が暮れちゃうよ」

「…あ、ああ、…」



 あの時は曖昧なまま歩き出したけど、勿論、その事が頭から離れる事はなかった。問題は、わけの分からない事はたくさん有る。ある、けど…


「…あたしは、沖田君にどうしたらいいのかな?」

「…香月…」


 ――1番は、コレしかない。

 はじめて下校を共にした時、約束とは何の事だと聞いたら何時でもいいと言ったし、知らないままでもいいと言った。だけどそれに反してたまに見せる哀し気な横顔は、心にぐっと訴えてくる。思い出さなきゃ、思い出さなきゃ。


「前世の"あたし"を望む沖田君のために、思い出さなきゃ」


 笑えないくらい落ち込んでしまう事はないが、この言葉が、どこかにずっと存在し続けていた。


「…でも、何であたしじゃない"あたし"のために、こんなに考え込まなくちゃいけないのかな」

「……」

「それに、つまり。沖田君は前世のあたしのためにチョッカイ出して来るって事でしょ?それもなんか、複雑、だなって」


 カンに障る言い方ではあったけど、元気付けてくれようとしてくれた時は嬉しかった。しかしその嬉しさすら、消してしまうほどに"前世"のワードの存在は、大きい。

 服の裾を忙しなく弄る。何話してるんだろと自分に呆れすらかんじてきたころ、唐突に肩を叩く、大きな手に固まった。


「…気にするなとは、言わない」

「一君…」

「起きてしまった事は、当人がなんとかするしかないからな。だが、あんたがこのままでは辛いと言うなら…俺の方から総司に言っておこう」


 少し過敏に振り返った先には、まるで、小さな子供に向けるような笑みが浮かべられており。唐突なのも有ってかふしぎと気持ちが解れていった。


「…あはは、グチっちゃった」

「そうだな。まあ、完全にすっきりとはしていないようだが」

「……」

「俺で務まるなら、何時でも話を聞く。決着が付かない事はない筈だ、しっかり気を持て。香月」


 彼相手になら話せると自分から語り出した事なのに、今更照れ臭くなったが、斎藤はあくまで表情を崩さない。肩に乗せた手をポンポンと動かして、励ましてくれる。

 有り難う、その一言しかなかった。


「ああ。…それで、これから何処へ行きたいんだ?」

「……え?」


 …と。しめった空気を入れ替えるような言葉に、「一体何の事」とばかりの反応をしてしまった。


「?昼食は済んだ、そろそろ動いてもいいと思ってな。俺はとくに行きたい所は無い、何処でも付き合おう」

「へ…あ、…ああ…」

「?」


 そんな反応に首を傾げながらも、続けてくれる説明に時間をかけて納得をする。

 ああ、一君はこれから後の事を言ってるのか!凄く簡単な事なのに手を打ってしまう。何故って、これから何処に行く?なんて質問は期待していなかったからだ。

 今日はノートを返したいから待ち合わせをと約束してただけだったし、テストの事も有ったからすぐ「ではな」と言われるのを覚悟していた。けどそれも一気にクリアして、ぱっと立ち上がる。


「ええとええと、だったらね。あのへんに在るお店はよく見た事ないから回りたい、な!…いい?」

「ああ、わかった」

「有り難う!なら、出ぱ…――」

「待て、ゴミを忘れている」

「あ、…は〜い…」


 ――そうして、その日は足が痛くなるまで楽しんだ。







promise:07


「なあ総司〜、俺今回のテストなんとかならなかったら危ねえんだけど」

「分からない所はおしえてあげるって。だから付き合ってよ、平助」

「ったく…(…ま、昼から勉強なんて集中出来ないからイイケドさ)」


 お昼食べてかえろうよと総司に誘われて、食べおわった後。予定を変更して、フラフラと町中に散歩に出た。腕を頭の後ろでくみ、連れられるままに歩きながら何となく周りを見回してみる。

 でも、ある所でフと視線が止まった。


「……え、アレって…」


 アレって…一君と奏じゃん!2人が友達だったのは知ってるけど、何でこんな所に居るんだ?て言うか、一君はテストに備えるからって総司が…


「?どうしたの、平助」

「!え、えええ何でも!?そ、それより総司!俺あっち行きたい、あっち!」

「ちょ、イキなり何…」

「いーから!!」


 おもわずジッと見てたけど、声かけられてハッとした。アレは総司が見たらダメだ!幸いまだ気付いていない総司の背中を、一君達とは別の方向に押す。何で俺が焦んなくちゃいけねえの!つうか、うそ吐くなんて珍しいな一君…!


「(もしかして、修羅場ってヤツ!?)」



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