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□人生でオレが最低な日
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 オレは、最低ではすまない罪を犯した。
 悪気は無かったんだ。それは紛れもない本当の事だけど、なんて、都合のいい言葉なんだろう。ヘドが出る。悪気が無くても犯した罪は無くならないし、有っては、ならない事なんだ。



「本当に、ゴメン。ゴメン、…ゴメン」



 上半身だけ起こして、白いベッドに座るその子に向けて。これでもかというくらい額を床にこすり付けて、土下座した。部屋は温かいけど心は、喉は、あたまはカラカラに渇ききっている。でも、今にも圧し潰されそうな罪の重さにながす水分は大量に有り余っていて、サイテイサイテイサイテイだと唇を噛んで戒めた。泣いて少しでも、ほんの少しでも楽になるなんて事は世間にも自分にも何より―この子に。決して許されない事だし、許されてはいけない事だ。

 カチコチ、カチコチ……。

 もうすぐ日付をこえようとしている時計の針の音だけが目立つ。いつまで待っても応答はないが、額を床から離そうとは思わなかった。寧ろ「一生そのままで居ろ」と、何度も叩き付けられたいくらいだ。MとかSとか、そういう話じゃない。アタリマエの事、そうで在るべき事なのだ。と同時に、何も与えられないこの苦しみも罰なのかもしれない。


「………………高尾君」

「……、……ん」


 とても久しくかんじたその子の声に、溢れかけたいくつもの言葉を必死で腹のそこに押し戻す。オレは、この子の言う事をジャマして自分の気持ちを主張してはならない。口答え等、言語道断だ。立ち上がるためにこの額を床から離しても、心の中ではいつでも床にこすり付けているべきである。…くるったやつだと、へんなやつだと言われるだろうか。

 ――いいや、それがどうした。オレは



「貴方が何をしているのか、私には見えないよ」



 彼女から、世界のイロを奪ったというのに。







人生でオレが最低な日

 両目に巻かれた包帯ににじんだ涙を見る事も、オレには許されない。




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