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□やるべき事、出来る事
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 それは何らかわりない、学校生活の中で唐突に起きた。


「ヘタクソー!!」

「(ガキかよ……)」


 ひまを持て余した男子達が、廊下で、ボールで遊んでいたのが始まりだ。
周りのオレ達からしてみたら勿論メイワク極まりなく、呆れるか、嫌なカオをしていないやつは居ない。でも、止めるやつもとくに居ない。「何処に来ても男子は子供だね」なんていう女子の声もした程だ。呑気だねえ…と言いつつ、オレも興味半分で見てる所も有るけど。先生に呼び出されて不在の真ちゃんが早く戻って来ねえかなーと祈りつつ、フルーツ・オ・レを飲み干した。

 ヘタクソと言われた男子が、腹を立てて「見てろよ!!」と言い返していた。や、ムリしない方がいーって。ヘタじゃなくても上手くはねえから。そう考えても伝わる筈もなく、男子は大きく腕を振り被った。オイオイ、いくら何でもそれは危な…――。


「……オイオイオイっ!」


 その時。男子達の死角から、女子が一人歩いてくるのをホークアイが捉えた。今そのまま進んだら、放られたボールが当たる可能性がとても高い。誰も気付かない。仕方ない事でも軽く舌うちをしてから 、全力で走り出した。


「ど、け!…そこの子、止まれ!!」


 人を押しのけて、すり抜けて、叫んでもそれなりの運動神経でもない限り急に止まれるわけがない。寧ろ1番危険な所で足を止めて、首を傾けるその子に悪いと思いつつも突進した(間に合え、間に合え!)。突進して倒れた直後、ボールが風をきる音が間近に聞こえる。 カシャーン!! もう少し遅かったら、確実に顔に当たっていた。よかったと安心する間もなく体を起こして、とっさに腕を滑りこませたはいいものの、体を強くうち付けたりケガしてないか心配でその子も抱き起こした。…て、アレ?

 うわ、うわこの子カワイイ!何、オレこの子たすけたの!?これは何かが始まるフラグでしょ!!危険だったものの本やドラマのような展開に胸をときめかし、心の中で男子達に感謝した(建前で「危ねえだろ!」とは言うけど)。ワタワタする男子達を無視して、大丈夫?とその子に声をかける。そもそもワタワタする前に、カシャーンという音の原因を片付けてしまえ。と言おうと声に力をこめた



「きゃーーーー!!」



 ――刹那。甲高い女子の叫び声に、ここに居た誰もが振り向いた。


「や、やべーだろ!!」

「誰か、誰か先生を……!!」


 次々に女子の叫び声がとび交う。ただ事ではない。皆同じ所に集まっていくがここからだと死角で、いくらホークアイを持ってしても何が起きているのか見えなかった。数人の男子がいち早く走り出して横を通り抜けていき、先生来て!来て!!と連呼している。……何でだろ、

 オレ今、上手く息吸えてない。


「どうしたんだろう?あ、有り難うね高尾君…高尾君?」と話しかけてくるその子からやんわりと離れて、一目散にかけ出した。両手で口を覆って青ざめる女子とか、まじかよと苦いカオをする男子を先程と同じように押しのけて、前に出るとそこからは踊り場が見えて――


「………え…」


 女子が、倒れていた。それも、彼女が持っていたと思われる花瓶の…砕けた破片の上で。


「……チョイ、待って」


 血の気が引く、なんて生やさしいものじゃない。上から下まで冷水を被って、オマケに浸かったかのように全身の感覚が無くなる。目の前は真白…正確には彼女だけをのこして、風景が失われていく。これは一体どういう事だと自分で自分に問いかけても答えは出なくて、替わりに答えてくれたのは、何度も何度も彼女の傍で彼女に声をかけ続けていたクラスメイトの女子だった。


「っアンタの、高尾のせいだよ!!」


 オレは、とり返しの付かない事をした。



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