Late confession
□03
1ページ/4ページ
中学3年生と言うと、高校入試を目前にした学年だ。
希望の高校はとくに難しいレベルじゃなかったが、確実に受かるようにと誰からか塾を勧められた。最初は気乗りしなかったけど、周りの皆は何かしらはじめるものだから「あたしも何かしないと」と感化されてしまったのである。
「ま、間に合うかな…!」
しかし。そう軽い気持ちも有ったからか、塾通い1日目にして遅刻の危機に陥った。塾の事を忘れていたわけじゃないが、そういう所に通った経験がなかったために出発の時間を計り間違えてしまったのだ。こんなんじゃ先が思いやられる上に、あっと言う間に挫折してしまいそうだと早くもネガティブになる。
「な、んとか、セーフ…」
でも運良く間に合って、最悪のスタートは免れた…けど。通う事にした塾はどうやら人気らしく、席も大体が埋まってしまっていた。空席を見付けても勉強道具がたんまり置かれていて、持ち主に声を掛けようにも自主勉強を熱心にしていてムリだった。この状況なら隣にどんな人が座っていてもガマンするしかないのだが、どうも「この人の隣は嫌だな」という気持ちが勝ってしまってモタモタするうちに先生は来てしまう。
ヤバイ!と焦って余計に席を見付けられないで居ると、
「おい」
と短く呼ばれて、ビク!と肩が震えた。
「ハ、ハイ!?」
「…座る所がないのなら、ここを使え。もう授業がはじまる、他の者にメイワクだ」
振り返ると、男子がこちらを見ないで自分の隣の席を指している。声をかけられた事に暫くポカンとしていたが、初対面の人に対しての言葉遣いにしては少し酷い気がしてムッとした。けど彼の言う通りメイワクになるし、丁度落ち着けそうな席だと条件も合って大人しく腰を下ろす。
それからすぐ、授業はスタートした。
「(…うわ、何コレ…)」
そしてとりかかった問題は、学校の問題と何か違っていてサッパリ解らない。ここの問題を解くようにと先生が一旦黒板を離れて早数分、全く手を付けられないで居た。通っている中学がバカなのか、使っている教材が簡単にしてくれてるのか単に自分がバカなのかは知らないけど本当に解らない。周りを見るとスラスラ解いている子や、多少手子摺りつつも解いていく子達が見える。マズイ置いていかれる、本日2度目の挫折の予感。
「質問が有る人、居ますか?」
「!先…」
「先生!」
…せっかくのチャンスも、先をこされてしまう。挙手しかけた手を下ろして、勝手に零れるため息と共に机の上に倒れこんだ。
「…進まないのか」
「へ?」
控えめにうるさい室内で、すぐ傍から声がする。着席する前に叱られた(?)事も有って過剰に反応してしまう…と言うか、この声はその叱って来た人の声ではないかと頬が引きつった。でも無視は出来ないので、ゆっくりと振り向いて見る。
…勿論そこでは例の彼が、今度はこっちを向いて居た。
「今、挙手をしかけていただろう。それに、さっきからキョロキョロと落ち着かないようだが」
「す、すいません」
「?何故謝る」
「や、見苦しかったかなって…」
「…無用な気遣いだ。あんたが落ち着かなくなったころには、もう解けていた」
「……そ、ですか」
改めて見ると、なかなかのイケメンさんだった。喋り方からして大人びたキリリとしている人だろうとは思っていたけど…大体ドンピシャである。ただちょーっと…否とても、話しかけ難さをかんじる。しかし頭脳明晰と来た、ミステリアスキャラで女子からモテそうだ。
「コレを」
「……ノート?」
「俺なりに、解説してある。よかったら使うといい」
…言葉を失う。そんな厚意を、しかも彼から貰えるなんて予想出来ただろうか。差し出されたノートを受けとって見ると、答えを出すまでの解説が丁寧に記されていた。これならイケる、解ける!!でも本当に借りていいのかと目で問うと、申しわけなさそうに、彼は視線を落とした。
「…さっきの、俺の言い方はよくなかった。それで詫びられたらと、思う」
「……!」
…さっきの事を気にして、声をかけてくれたのか。となると彼の印象は一転する、寧ろ前言撤回だ。それでいいかと今一度聞いてくる仕草には可愛さすらかんじた。肩に入っていた力もスッと緩んで、いつもの自分通りに笑える。
「有り難う。たすかります」
「……そう、か」
礼を言うと、彼はビックリして目を丸くした。と思ったらこれまた意外な事に、素敵な微笑を向けてくれる。
そうした彼との出会いが、塾に通い続ける意欲を与えてくれた。