Late confession
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「一君、この子と知り合いだったの?」
「ああ、まあな」
「へぇ…」
「………」
コレは一体どう言う事なんデショウ?親しげに言葉を交す2人を前にして、肩に掛けた鞄のひもが滑りおちる。ドサッと音をさせたそれを拾う気力すら起きず、茫然と立ち尽くした。
「何!?どゆ事!?ワォ、奏ったら美男2人に挟まれたの〜!?」
大人しくしてろと言った筈なのに、耐えられなくなったのか走って来た美里にテンション高々に肩を叩かれた。
他人事だから、そんな事が言えるんだろう。
「……あの、沖田君、部活は?」
何とか声を絞り出した。斎藤から暫く目を離さなかった沖田だが、訊ねるとニコリとこちらへ振り返る。
「テスト前だから休み。言わなかったのは単にその方が面白かったから」
「……」
――何が面白い。
「(あああ何がなんだか…!!)」
「ねぇ、今日は寄り道しようよ。お腹へったんだけど、女の子だと半額になる所が有るんだよね」
「あ…!美里、美里あげるから!!」
「わたし今日はバイトだから〜」
ウソでしょと反論したかったが、昼休みの時に言っていた事を思い出す。やり場のないに感情にムズムズしていると、グイと手を引っぱられた。
しかし、後ろ歩きになりながら過ぎ行く景色に映った人物にハッとなる。
「よ、用事あるの!一君と!!」
そう、借りたものを返さないといけないし話したい事があるんだ。足をふん張って何とか立ち止まらせると、沖田は「…用?」ときょとんと振り返った。
「そうなの?一君」
するとその矛先は、斎藤に向けられる。話を合わせておねがいしますと真剣に目で伝えれば、斎藤はこちらを一瞥してから沖田に向き直った。
「……別に無い」
期待を裏ぎる正直な返答に、グサリとうな垂れる。
「…ウソはよくないね、奏ちゃん」
「……」
掴まれた手から伝わる力に、何を言ってももう受け付けて貰えないと釘を刺された。
「方向違うから、私はお先に失礼〜!またね奏!沖田君♪」
「また…あ。今度メアド交換しよう?聞きたい事とかあるし」
「喜んで!!」
「(…なんか不吉)」
反対の道に向かう美里の背中を見てから、彼女のメアドを入手してどうするのかと沖田を見ようとしたが、ろくな返事じゃないだろうなと思って止める。
下がった気分のまま視線を戻すと、どうしたのか、斎藤が屈んだ体制から立ち上がる所だった。
「…ではな、香月」
「へ?…あ」
そして横を通り過ぎようとした時、自由な方の手に何か掛けられる。
「……あたしの、鞄」
拾わずに放置されていた鞄だった。あわてて礼を言えば、僅かに笑みを見せただけで角を曲がって行く…時に見せた、左腕を指でトントンと叩く一瞬の仕草が気になる。
腕?何気なく自分の左腕を見下ろした。
「……あれ?」
「行くよ、奏ちゃん」
「ああ、はい。……?」
腕と鞄のひもの間に、紙が有る。待ちくたびれたと言うようすの沖田に引かれながら、手をくねらせてメモをとった。
「……あ!」
その中身を見て、一気に高ぶる。
そこに書かれた文はたった2行だけだが十分に価値のあるもの…携帯の電話番号とアドレスだった。
「何?」
「ん?あ、別にー」
聞いてくるが、沖田は前を見たままこちらを見てない。今のうちにメモを制服のポケットにしまい込む。
「…僕達のまわりには、共通の友達がこんなに居たんだね」
「?…わ」
それに気をとられて、前を見てなかったのが悪かった。呟きに振り返るとポフンと肌触りのいい生地にうずまり、視界は白一色になる。
沖田のセーターだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
「それなのに。知らなかったのは、僕達だけだったんだ」
構わずに続けられる言葉には、先程までのおチャラけた雰囲気はない。しかし淡々とした口調に何と返したらいいのか迷っていると、クンッとまた手を引かれて体が傾く。
「何食べようかな〜。せっかくだし、そこで晩ご飯もすませようかなあ」
「…来週テストはじまるなら、早く家に帰った方がよくない?」
「あはは。僕がテストに備えるような事するわけないじゃん」
「……」
今考えると、少し哀しさのようなものが含まれていた気がする言葉の余韻は、何処にもなかった。