Late confession

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「………」


 夕暮れに染まる時間帯。1人でクラスにのこって、今度の行事か何かに使われると言う花をもくもくと作る。気付くと、自分と後ろの席の机の上にはこんもり花の山が出来て居た。

 …これくらい出来たら逆に作らない方がいいだろう。背凭れにダランと体重をかける。


「……あーあ」


 あたしは何でこんな事を、放課後にしてるんだろう。真面目にしていたら授業中におわる事だし、本当なら今ごろ家に居るころだ。なのにここに居るわけは…自分でも、よく分かってる。


 ――何てあたしは、弱むしなんだろ。


 その一言を胸の中でくり返しながら、静かに目を閉じる。


「いいの?私ものころうか…?」

「美里は今日バイトでしょ、平気だよ」

「……あまり気にしないのよ」

「…有り難う」



 別に、グループ作業で誰かがサボる事は珍しくない。それを一々気にしてたらラチが明かないし、後でツケが回ってくるのは自分達なんだし関わらない事にしていた。でも、今日は少々わけが違って…グループで花の数がノルマに達していないとペナルティが下される、つまり連帯責任なのだ。

 なのにホントに何もしない女が1人居て。一体何をしたいのか、同じグループの男子の隣を陣どって男タラシを展開してた。見苦しい実に見苦しい!男子の中には仲のいい子とか人がいい子も居たから余計にカチンと頭に来て、とうとう口を出してしまった。

 何て言葉にしたかは、忘れたけれど…


「奏さんも同じようなモンじゃん」

「は?」

「たしか名前は〜…沖田くん?」



 その名前だけで何て抵抗してくるつもりか簡単に読めたが、何処が同じだと言うのだろうか。でもその時のその女子のカオが本気で…質の悪い、からかいのカオで。おもわず言葉をなくした。ほかの制服の生徒がよく門の所に居たら「また居るねー」と有名になるのはアタリマエだが、ここでこうネタにされてしまうとは…

 その後も何か言われたが、それも今はもう忘れてしまい…覚えているのは、大した反論も出来ずにただ受け身で居たコト。その上サイアクな事は其所に先生が来て「香月、今日の日直だろ?放課後、追加で花作りしてくれんか」なんてたのんで来た事だ。


「……まあ、そのオカゲで今日は1人になれる」


 彼に会える気がしない、会いたくはない。彼を悪く言うつもりはないが、彼の名を啖呵に色々言われたのはたしかで。何故、自分から望んで起きてない事に自分がああ言うふうに言われるのかという怒りが有るのも確かである。

 でも。それよりも、何よりも……


「……弱虫、だなぁ」


 言われるままの自分。今なら反論の言葉はスラスラ出て来るのに、本番にはなんにも出て来ない。何よりもそんな自分に対して腹が立ち、涙までにじんで来たんだからまたサイアクだ。先生が訪れた事で会話もそのうちおわり、授業も間もなくおわり。


「……出ますか」


 出来た花を全部段ボールに放り入れ、鞄を手に廊下へ出る。部活をしてる活発な生徒の声は微笑ましく、少しだけ気分を解してくれた。同じようにそのへんを走り回る事も考えたが、ヘンな目で見られちゃたまらない。

 こう言う時こそ、音楽の力を借りよう。部活生の妨げにならない所まで来てからプレイヤーを出した。



「今日はもうおしまい。こんな時間なんだから、皆も家にかえりなよ」



 何の曲にしようか。画面に触れかけた指が、ふと聞こえた声で動きを止める。


「えー!何でだよ、まだ大丈夫だよ!」

「今の時期はすぐ暗くなるし、君達の戻りが遅れたら叱られるのは僕なんだ」

「ぶー…」

「また遊んでくれるー?」

「あはは、今度…ね」


 その声は短期間であまりにも聞き慣れた声であり、その人の名前も迷う間もなく浮かんで来た。

 何で?あたしはメール入れた筈なのに。そんな焦りを胸に、子供達が来た方に歩を進めた。その先に居るのが浮かんだ名前の人でない事を祈りつつ。


「…………」


 だが、所詮は祈り止まりである。


「あ」


 大事なイケメン面に土を付けた彼が、こちらに気付いた。気付かれた事に対して何時もなら嫌なカオの1つでもする所だが、何よりも、何故ここに居るのかと言う事が気がかりだった。

 足元の鞄を拾い、目の前まで来る沖田を茫然と見詰める。


「用事、おわったんだ」

「…それ。用事があるから今日は来ないように、メール入れたよね?」


 用事と言う言葉を彼自身が口にして居るのだから間違いない。何で?理由を話すように目で促したら、アタリマエのように答られた。


「何時ものように僕を撒く口実なのかと思ったから」


 ――ああ、ナルホド。


「……今回は、本当だったんだね」

「…ザンネンでした」

「まあ、遊んで貰ってたからヒマはしなかったよ」

「今さっき走って行った子達の事?たしかに、楽しそうにしてたね」

「そ?」


 遊んで貰ったの言い方は気になったが、あえて触れない。子供達が居なくなった方を見つめてから、ポケットの中からハンカチを出した。


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