Late confession
□EX:02
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「――よし、と!」
雑巾は床に付けたまま、右手の甲でながれる汗を拭う。すっきりした気分で自分の後ろに伸びるろうかを振り返るとそれは綺麗で、さっきまで有った砂埃はなくなって居た。
今日は、ここでおわり。
洗濯は少なかったから済んでしまっており、食事の当番は別の人だから心配ない。なら!と掃除に励んだわけだが、張りきったオカゲで早く済んでしまった。
「……さて、何しようかな」
道具を元の場所に戻して、手を洗いながらこれからの事を考える。普通なら自分のために使う時間だろうが、ここに居てはそんな気は起きなかった。何かしよう、何かしたい。…あ、1番いそがしそうな食事の準備を手伝う事にしよう。千鶴は、進行方向を勝手場に向けた。
「雪村君!ここに居たのか」
「?あ…、近藤さん」
しかし、歩き出す前に呼び止められる。ぱっと声のした方を見たら、大きな歩幅でこちらにやって来る近藤勇の姿が在った。
「お戻りになられてたんですね」
「ああ。今、時間は有るかね?」
「はい。家事なら終わりましたし…」
「そうか、それは丁度よかった!途中、一緒に食べようと団子を買ったんだ」
「え?お団子…」
目の前まで来た近藤の両手には、その団子が入っているだろう包みが持たれて居る。他の隊士を差し置いて自分だけいいのか迷ったが…人の善い無邪気な笑みを向けられたら、断るに断れなかった。
「お茶をお持ちしました」
団子だけだと喉が渇くので、茶を淹れて戻って来る。お茶を淹れるべく勝手場に行ったが、今日はそんなに手がかかってないようだったので安心した。
縁側に腰を下ろした近藤に差し出すと、有り難うと一言入れてから受けとられる。それを見届けてから、自分も隣に腰を下ろした。
「……美味い!いいなあ、こうしてゆっくりするのは」
「ふふ、はい。このお団子もとても美味しいですよ」
「そうだろう!美味いと噂の店を選んで来たからな」
ゆったりとした調子で食べ進めて行く。その間に交されるのは他愛のない話で、それも藤堂が滑ったとか稽古に励んでるとか新選組内での話題に占められた。
「……それで、だな。雪村君、聞きたい事が有るんだが」
だが唐突に、訊ね難そうにしながらきり出される。何でしょう?と首を傾げて先を促すと、近藤は誰も近くに居ない事をたしかめるように周囲を何度か見回してから、内緒話をするような仕草で訊ねて来た。
「…先日、総司と奏君の墓参りに行ったそうだな。…総司は、落ち込んでは居なかっただろうか?」
浮かべられた表情は気になって仕方ないとでも言うようで、心配している事がひしひし伝わる。
…もしかして、元々それが聞きたくて団子を食べようと持ちかけたのだろうか?有り得なくはなくて、答えを待ってそわそわしてる所を微笑ましくかんじると同時に。聞かれた事に対しては少し、気分が下を向く。
「…あの沖田さんですから、落ち込んでる所を見せてはくれませんでした」
「……そう、か。それもそうか」
「けど、屯所に戻る時間までずっとお墓を見てて。その前にはすこし、奏さんと知り合ったころの話をしてくれました」
「何?総司が?」
「はい」
落ち着こうとしたのか、茶をすすろうとした手を止めて近藤は目を丸くした。たしかに、沖田は昔話をするような人ではない気もするしおどろくのは可笑しくない。
「…出逢ったころか。久しいなぁ」
空に向けられる目が、優しくほそめられる。声をかけずそれを見てたら、何を思い出したのか楽しそうに頬を緩ませるからつられて笑ってしまった。
たくさん、楽しい事が有ったのだろう。そんな話を聞きたかったが、沖田の話を思い出してたらフと気になる事がある。
「あの、近藤さん」
「?何かね」
「沖田さんと奏さんは、本当に仲が悪かったんですか?」
これが冗談なら、近藤なら笑い飛ばしてくれるだろうと予想した。しかし近藤は苦々しい表情になると、当時の光景を目の前にしているかのように困った顔になり、頬を掻く。
「…あ…ああ、最初のころは酷かった。トシと一緒に頭を悩ませていたよ」
「……」
…局長がそんなふうに言うなんて。珍しい事に、自分で訊ねて置きながらポカンと口を開けて固まった。
まあ、生易しくない殴り合いのケンカをしたとなれば一概に仲が良かったぞとは言えないかも知れないが。呆気にとられているのに気付き、アタフタして「だが」と話を続けられる。
「何事もキッカケだ。あの2人の仲も、ある日を境に良くなって行ったよ」
「ある日?」
2人は徐々に仲良くなったんだろうくらいに考えてたから、キッカケとなる日があるならそれは少し気になった。興味の目を向ければ、近藤の表情が優しいものに戻る。